三大噺 お題:居酒屋/メイド/おふ
作:こうけい


あれ…ここは…。
視野の<明度>が上がっていくと、薄汚れた天井が目に映った。
どうやら、俺は気絶していたらしい。
全身と顔じゅうに包帯が巻かれているのか、声を出すことができない。

俺の顔を女の使用人が覗く。この顔は、女性使用人番号274号だな。
「女性使用人番号355号、気がついたわね」
…どういうことだ?俺はこの屋敷の主人だぞ。女性使用人番号355号だと?
それに、この部屋は…この壁のひび割れ具合は…第46使用人室じゃないのか?
主人のこの俺が、どうしてこんな部屋のベッドに…!?
「落ち着いて、355号。今ドクターが来るから」
274号が言うと同時に、屋敷住み込みのドクターが入室した。
「んー、355号さんは全身に擦り傷を負っていますね。深い傷ではありませんので、数日で包帯はとれるでしょう。
ご主人様も心配なさってましたよ。ご自分は無傷でしたのに、355号さんのお怪我に大層心を痛めておられました」
そう言われてみると、なんだか全身のあちこちがズキズキと痛んでくる。
「355号。今回休んだ分、あなたの仕事量を増やしておくわ。復帰したら覚悟しといてね」
274号が冷ややかな声で俺に告げた。
ドクターも274号も、俺を女性使用人番号355号として扱っている。

思い出してきた。
俺は廊下を歩いていて、たまたま355号とすれ違った。
とたんに、背後から爆発音が聞こえて、そこで意識がなくなったのだ。
…どうやら爆発のときのショックで、俺の魂が355号の体に入ってしまったらしい。
だとすれば、包帯と掛け布団の上からもはっきりとわかる、この胸のふくらみも…。
くーっ、両手両足が固定されてなければ、触って確かめてやるのに!

それにしても、これから、俺の生活はどうなってしまうのだろう…。
このまま、355号として生活しなくてはいけないのか?
広い屋敷の主人だったはずの俺が、一使用人になるなんて…。
自分の地位ってものは、<いざ、蚊帳>の外に放り出されてみて、はじめてありがたみがわかるものなんだな…。
俺に残された励みは、355号の女の肉体を探る楽しみだけか。
あいつは背の割になかなか胸がでかいから、探りがいはあるよな…。

「あっ、ご主人様がいらっしゃいました」
274号の声とともに、扉が開く。ついに、俺と俺とのご対面か。
もしかしたら、俺の体の中身は355号なのか?
だとすれば、彼女と立場が逆転してしまった俺は、いったい彼女から何を命じられるのだろう?

しかし、現れたのは、女性使用人番号355号だった。
…どうなってるんだ!?355号がふたり?

「ご主人様、ストレス解消になりましたか?」
355号が優しく声をかけてきた。
と、いうことは!?
「このへんでよろしいですね。ご主人様」
ドクターがそう言いながら俺の包帯をとると、正真正銘の俺の体と、胸のパッドが現れた。もちろん、体は無傷そのものだ。
「…ああっ!?俺になんのつもりだったんだ?」

ドクターが釈明する。
「ご主人様、お仕事の疲れがたまっていらっしゃいましたよね。
元気になっていただきたくて、我々使用人がちょっとした遊びを提供いたしました」
「今回の計画は、わたくし274号が提案したのですよ。テープで爆発音を流したのもわたくしです」
「あたしの体になるという夢は、楽しんで味わっていただけましたか?」
355号はウインクを投げかけてきた。

なにがちょっとした遊びだ。まったく、困った使用人たちめ。かえってストレスがたまったじゃないか!
「おまえら、<おふ>ざけはやめて、さっさと仕事に戻れ!」

俺は胸をなでおろした。やっぱり、屋敷の主人が一番だぜ。
女の体には、なってみたかったけどな…。

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