三大噺　お題：憑依／変身／交換
作：こうけい


総合病院の外来に、ひとりの少年が駆け込んできた。
「あたし、男に＜変身＞しちゃったんです。女の体に治してください！」

少年は外科に通された。
「確かに男の体ですね…。それで、あなたはどういう状況で変身したんですか？」
「道を歩いてたら突然胸がしぼんじゃって、気がついたら…」
「そのときの詳しい状況、説明してもらえませんか」
「あたしが歩いてたら、前のほうから男の人がすごい速さで走ってきて、
避けようとして左に寄ったらその人も同じ方向に曲がってきて、
お互いの頭をぶつけちゃって、気がついたらあたしの胸がしぼんでて…。
そうそう、これはその男の人の体なんです。あたし、体を＜交換＞されちゃったんです！」
「うむ…これは体というより脳の異常ですな…」

次に、少年は脳神経科に通された。
「なるほど…交換してしまった相手というのは、どこにいるんです？」
「連絡がとれないんですよ。気がついたらまわりにだれもいないし、
その人が落とし物をしていったってこともないし」
「あなたが着ている服は、その相手のものですよね？ポケットとかに、手がかりになるような持ち物は入ってませんか？」
そう言われてポケットを探っていた少年の言動が、突然豹変した。
「……ヤ、ヤバ！見つからねえ！明日発売のＣＤの予約票！
どこに落としたんだよ、ちくしょう！予約金全額払ったってのによ！」
「ど…どうされました？」
「………ごめんなさい。あたしが体を借りてる男の人の本能が出たんだと思います」
少年は、もとの少女の言葉づかいに戻った。
「うむ…これは精神交換というよりは＜憑依＞ですな…」

次に、少年は精神科に通された。
「君は、自分がこの男の人に憑依しているというのですね？」
「はい。頭をぶつけちゃって、気がついたらこの人の体にいるんです。
となりには気を失ったあたしが横になってて、いくら起こそうとしても目を覚まさない。
きっと、あのあたしは魂が抜けてしまったんだと思います」
精神科医は、ここまでの話を聞いて首をかしげた。
「うむ…外科と脳神経科でのカルテを見てみたが、君の話は矛盾だらけじゃないか。
君、本当に女性なのかね？」
「はっ、バレたか！確かに、俺はもとから男だったんだよ、ご苦労さん」
「私たちは忙しいんだ。いたずらはやめて、帰りたまえ！」
「ああ帰るぜ、じゃあな………うっ！」
突如下半身に妙な疼きを覚えて、少年はその場にしゃがみこんだ。

少年は産婦人科に通された。
「うむ…月経ですな」
「えっ！？俺、男だぜ」
「先天性の性器形成異常です。
あなたは本来女性であるにもかかわらず、擬似的な男性器ができてしまったのです。
体の中には卵巣と子宮がありますし、これからは肉体も女性化してくることでしょう。
手術で女性器を形成して、完全な女性体になるしかありませんね」
……ウソから出たマコトというのか、ヒョウタンから駒というのか。
自分は少女だと言って病院をからかった少年は、本当に少女になってしまったのである。

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