三大噺 お題:エプロン/喫茶店/木星
作:こうけい


2×××年、人類は全太陽系へと移民を広げていった。
ついに各惑星・衛星はそれぞれ独立国家として、
地球政府と対等な立場で交易を行なうようになっていた。

『…次のニュースです。
地球政府は、<木星>系衛星諸国産<エプロン>の輸入規制措置、
いわゆるセーフガードの発動について本格的に検討を始めました。
イオやガニメデなど木星系衛星諸国でつくられたエプロンは、
価格が安いこともあってわが国に大量に輸入されており、
国内のエプロン産業に大きな影響を与えています。
国内エプロン業界では、価格競争力で木星産に劣る分、
優れたデザインによってエプロンに高い付加価値を持たせ、
新たな需要を生み出すなどの対策をとっていますが、それも限界に近く…』

「セーフガードだなんて、まったく余計なことをしてくれるよな」
とある<喫茶店>では、厨房に流れるラジオのニュースを聞きながら、マスターがぼやいている。
「デザインに凝ってみたって、どうせ女しか買ってないんだろ。
俺たちには、木星の安いエプロンで十分。
飲み物がうまければ、お客は入ってくれるんだからさ。
地球の高いエプロンしか使えなくなったら、コストが上がっちまうぜ」
そのとき、ラジオのアナウンサーの口調が変わった。
『あっ、ただいま入ったニュースです。
政府は、木星系衛星諸国産エプロンについて、
セーフガードの発動を正式に宣言しました。このセーフガードの内容は…』

「なに?決まったのか?」
そのとき、マスターは体に異変を感じた。胸が急に熱くなり、風船のようにふくらんでいく。
「あ?ああ?おいおいおい!?」
全身の筋肉が溶けるようになくなっていき、代わりに脂肪が皮膚の下を覆う。
背丈はひとまわり小さくなり、体全体が丸みを帯びていった。
股間にあったはずの突起も、体に吸い込まれるように消滅する。
「おいおい、俺の体、どうなってるんだよ!?」
そう叫ぶマスターの声は、すっかり甲高くなっていた。

『…セーフガードの内容は、超科学的措置により、
エプロンを業務に使用する男性を女性に変換して、
高付加価値な女性用国産エプロンを使用するように誘導するものです。
政府は、これによって年間数億枚の国産エプロンの需要が新たに得られるものと試算しています』

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