三大噺　お題：花見／酒／風
作：こうけい


ディスクショップの店内で、３人のアイドルファンの男たちが品定めをしていた。
「俺はこの立花理佐にするぜ」
「俺は＜酒＞井法子か生稲晃子か…やっぱり生稲さんに決めた！」
「おまえはだれにするんだ？」
「俺は浅香唯だな」
「それなら、こっちのソロディスクのほうが評判がいいぞ」
「いや、俺はこの＜風＞間三姉妹のほうにする。大西結＜花見＞たさもあるんでな」
「そうか、おまえは結花ファンでもあったんだな」
「よし、決まったか」

自宅のアパートに帰った男は、買ってきた浅香唯のディスクをプレイヤーにセットし、ヘッドフォンをかぶって、再生スイッチをオンにした。
すると、１８０センチはあった男の背丈はみるみる縮んでいき、胸がふくらみ腰はくびれていった。
ロングでボサボサだった髪型は、女の子の清楚なショートカットになる。
服装も、少女用の普段着へと形を変えていった。
「うん、これで完璧」
ヘッドフォンを外した元・男は、鏡を見てうなずく。

そのとき、アパートの呼び鈴が鳴る。元・男はインターホンの受話器を取った。
「唯ちゃんおはよう！仕事行くよ」
「あっマネージャー、おはよーございます！」
元・男が外に出ると、マネージャーが車で迎えにきていた。
そう、元・男は今、１９８０年代後半に一世を風靡したアイドルの浅香唯に変身しているのである。
車の中からは、女の子も手を振っている。
「あっ、結花もおはよー！今日は結花もいっしょの車なんだ。さあ、スケバン刑事IIIの撮影、今日もがんばるぞー！」
---
２０ＸＸ年、画期的なアイドル商品が開発された。
ユーザー自身をアイドルに変身させ、設定されたスケジュール通りに仕事をさせることで、アイドルの一日の生活を体験することができるというディスクである。
そして、２０世紀クラシックアイドルのファンが待望していた、当時のアイドルの体験ディスクも、続々とリリースされていたのだった…。

（感想用掲示板はこちら）
（解説はこちら）
三大噺トップに戻る