女珀館の若女将シリーズ
６００００ＨＩＴ特別編「あのひとがご招待！？ の巻」
作：こうけい
（20030317 発表）
みなさま、こんにちは。「観光旅館 女珀館」若女将のこうけいでございます。
今回は、６００００ＨＩＴにいちばん近い数を踏まれたと申告なさったかたをご招待しております。さあ、はたしてどなたなのでしょう？
（以下、ホンモノの若女将を「わたし」、ＴＳＦ作家のこうけいを「こうけい」と表記します）
こうけい「こんにちはぁ」
女珀館の玄関に立つのは、クリーム色のオフタートルセーターを着たひとりの女性（？）。
わたし「あっ、こうけい様、いらっしゃいませ」
仲居Ａ「話に聞いてたとおり、そっくりですね」
若女将のこうけいと、ＴＳＦ作家のこうけい。当然だと言ってしまってはおしまいだろうけど、瓜ふたつだ。
こうけい「わたしが招待されちゃっていいのかしら？」
わたし「５９９８５はいちばん近い申告数ですわよ。ご遠慮なく」
こうけい「今日は、白い大女将さんはいないんですか？」
わたし「残念でしたわね。大女将は本日休暇で出かけてございます」
こうけい「あらあ、それは淋しいわ」
こうけい「御招待っていっても、こんなことまでやらせていただいて、本当によろしいんですか？」
わたし「ご心配なく。いざとなれば、わたしもフォローしますし」
帳場の奥で、ＴＳＦ作家が若女将の着物に着替える。
今日はＴＳＦ作家が「一日若女将」となるのである。
こうけい「わあっ、着てみるとわかるけど、ほんとにきれいな着物。
でも、これで……ＴＳはしませんよね」
わたし「申し訳ありません。おわかりでしょうけど」
こうけい「ええ。わかってますから、ご心配なく」
番頭「ありゃ？ 若女将、ちょっと態度が変わってない？」
こうけい「あら、番頭さんにはばれちゃった」
わたし「番頭、さすがですわね。わたしがほんとうの若女将。
でも、いまは作家のこうけいさんに一日若女将を体験していただいてるのです」
ホンモノの若女将のほうは、仲居の着物を着ている。
番頭「あ、なるほどね。それは失礼。
こうけいさん。似合ってますよ、お着物姿」
こうけい「あっ、ありがとうございます」
仲居Ｂ「私ども従業員ならともかく、お客様でしたらぜったい若女将と区別がつきませんよ」
「こんにちはぁ」
白いコートの下に、白いワンピース。
全身白でかためた女性が玄関に立つ。
わたし「あっ！ 予定通り……。
こうけいさん。一日若女将の出番ですわよ」
こうけい「はーい。いらっしゃいませ」
女性客「おそれいります。予約はしてないのですが、休憩よろしいでしょうか？」
こうけい「ご、ご休憩？」
わたし「こうけいさん、ＯＫって返事して」
こうけいの背後から、仲居姿の若女将がアドバイスする。
こうけい「……よろしいですわ。部屋に空きもございます。
さあ、こちらへどうぞ」
仲居姿の若女将のフォローを受けながら、ＴＳＦ作家のこうけいは白い女性客を客室に案内する。
帳場では、なにやら口論が。
こうけい「お客様、ですから……」
男性客「オレは今現金がないの。だから払えないの。わかった？ 若女将さん」
こうけい「そういわれても……どうしましょう」
男性客「どうしましょうじゃないんだよ。あんたが女将だろ？」
一日若女将でＴＳＦ作家のこうけいは、不測の事態におろおろするばかり。
わたし「こうけいさん、ちょっと」
ホンモノの若女将は、こうけいを帳場の奥につれていく。
わたし「あのお客、もう何日もこれで居座ってる不良客ですわ」
こうけい「わたし、もうびっくりで……どうしましょう？ まさか、ＴＳさせます？」
わたし「それですよ。実はですね、今日これから、女珀館を舞台にＣＭの撮影があるんです。
そして、こうけいさんには若女将役で出演していただきたく存じます」
あの『タイアップの巻』以来、女珀館はＣＭの名ロケ地になっているのだった。さらに驚くべきことに、今回撮影のＣＭでは若女将が主演することに決まっていたのである。
こうけい「えっ！？ びっくりですわ。……遠慮なくやらせていただきますけど」
わたし「さすがこうけいさん、そうくると思いましたよ」
仲居のマサヨ「実はあたしも、ＣＭの撮影がきっかけでここの仲居になったんですわ」
わたし「存じてますわよ。マサヨさんも、仕事が板につきましたよね。
話は戻りますけど、わたしは、あの不良客もＣＭに巻き込んでしまおうって考えてるんですわよ」
こうけい「それはおもしろいですね！」
わたし「それで、こうけいさんにもうひとつお願いしたいことは、ＣＭ用のシナリオを書いていただきたいのです」
こうけい「作家としてはぜひやりたいですけど、いいんですか？ もうすぐ撮影だっていうのに、まだシナリオできてないなんて」
わたし「お構いなく。この旅館が舞台になってて、ＴＳが入ってて、商品内容が説明できてればよろしいのですわ。書けますでしょう？」
こうけい「そんなもんですか。商品は……カメラ付携帯電話ですね。
なんだかおもしろくなってきましたよ！」
わたし「わたしだっておもしろいですわよ。作家の腕を見せつけてやってください、こうけいさん！」
こうけい「ええ！ 案が浮かんできました。机貸してくださいな」
一日若女将のこうけいは、ＴＳＦ作家の顔に戻って、持参のパソコンのキーボードをたたきはじめた。
さっきの白い休憩客が、廊下からじっと情景を見つめている。
女珀館のロビー。
こうけい「お客様、フィメールと１０回おっしゃっていただけます？」
不良客「フィメール、フィメール、フィメール、……、フィメール」
こうけい「次に、茶メールと１０回おっしゃっていただけます？」
不良客「茶メール、茶メール、茶メール、……、茶メール」
こうけい「お客様の性別を英語でおっしゃってくださいませ」
不良客「フィメール（ｆｅｍａｌｅ）」
こうけい「わかりました、お客様は女性でございますわね！」
不良客「しまった！……あやぁ、体が！ あひゃひゃあああ〜〜」
カシャリ。シャッター音。
男だった不良客がスーツ姿の女性に変身していくシーンが、携帯電話のディスプレイに動画で表示される。
『茶メールは性別を越える。
Ｊポンは、ヴォーダポンとひとつに』
監督「カーット！ 文句のつけようないね」
プロデューサー「とくにＴＳシーンよかったよ」
監督「ええ、プロデューサー。ぶっつけ本番でしかできないのに、あんなにうまくいくなんて」
プロデューサー「それにしても、なつかしの“１０回クイズ”とは参ったね。
このＣＭがきっかけで、またブームになるかもよ」
わたし「若女将のシナリオと演技のおかげですわ」
こうけい「わたしのような素人若女将でよろしかったのでしょうか…」
プロデューサー「いやいや、堂々の演技だったよ」
不良客「どうなってるんだ！？ オレの体、もとに戻せよ！」
ＣＭ撮影でＴＳさせられた、さっきの不良客が憤慨している。
こうけい「お客様、撮影にご協力いただいてありがとうございます」
不良客「へえっ！？」
わたし「お客様の宿泊代、ちょうどお客様の出演料でお支払いできますので、
もうお支払いいただかなくて結構ですわよ」
プロデューサー「彼女いいキャラしてたよ。モデルで使っちゃおうかな？」
監督「ええ、僕も気に入りました。さあ彼女、こっちおいで！」
監督は不良客の手をとって、旅館から引きずり出す。
不良客「助けて！ 男に口説かれるなんて気持ち悪い！ オレを男に戻せ！」
こうけい「ご利用ありがとうございました」
わたし「更生して、立派な女性タレントさんになってね」
不良客「いやあああああ〜〜〜っ！！！」
白い休憩客は、それを見届けながら静かに裏口にまわり、旅館を去っていった。
一日若女将のおつとめは無事に終わり、ＴＳＦ作家のこうけいは宿泊客としておいしい夕食を堪能した。
わたし「入浴はいかがなされますか？」
こうけい「実はわたし……それだけは困っちゃうのよ。おわかりでしょう？」
わたし「ええ。でも、大丈夫ですわ。
今から１時間だけ、こうけい様専用にさせていただいてますから。あっ、もちろん女性浴場のほうですわよ」
こうけい「あ、ありがとうございます、若女将」
こうして、こうけいはトラブルを起こすことなく、入浴を楽しめたのである。
一泊したこうけいは、翌朝無事に旅館を後にした。
宿泊客の送り出しも一段落した、昼前の帳場。
大女将「おはようございます」
わたし「大女将、おはようございます」
大女将「昨日のお休みは、旅館で休憩してきましたわ」
仲居Ｃ「休みというのに業界視察ですか、ご熱心ですね」
大女将「いい旅館でしたわよ。若女将をはじめ、従業員のみなさんがまごころをこめてもてなしてくださって、わたくしはとてもうれしゅうございました。
不払い客のトラブルにも、臨機応変に対応してましたしね」
わたし「それはそれは、さぞかしサービスの行き届いた旅館でしたね。うちも見習わないといけませんわ。
さあみんな、持ち場に戻って！」
番頭や仲居たちは、それぞれの仕事場へと戻っていった。
奥の個室へと身を引く大女将。
わたし「……昨日は、見守っていただいてありがとうございます。
ご招待、満足いただけましたか？」
若女将のこうけいはそうつぶやきながら、大女将に目配せをする。
そして帳場のパソコンからメーラーを立ち上げ、既読のフォルダから一通のメールのタイトルをダブルクリックした。
一瞬の砂時計を経て画面に現れた文面を、感慨深げに眺める若女将。
『６０００５を踏んでおりました。Ｗ・Ｑ』
（了）
この物語はフィクションであり、実在の人物、団体、商品などとは一切関係ありません。
（感想用掲示板はこちら）
（解説はこちら）
戻る
