| 微風ろろみたちが高校二年生の冬、二月一日の出来事。 水明華高校二年一組の同級生にして、ろろみ守護騎士団のメンバーのひとりである“リサ”こと有坂（下の名前略）の誕生日を祝って、瑞貴、覚、翔策、史枝、そしてろろみの五人がリサにプレゼントを贈ることになった。 まずは守護騎士団のリーダー、福永瑞貴がリサの前に立つ。 「お誕生日おめでとう、リサ」 「ありがとう。中身は何かしら」 「ちょっと恥ずかしいけどな……チョコレート。義理じゃない。ベルギー製の高級品だぞ」 そこに、小出史枝の突っ込みが入った。 「待って瑞貴！ あんた男の子でしょう？ どうして」 「チッチッチ。小出、突っ込むところが違うぞ。『十四日にはまだ早いんじゃ？』っていうんじゃないのか？」 「でも、瑞貴が男子だってことに変わりはないし、バレンタインって女の子が……」 「そうそう。瑞貴、私も男の子なのよ。わかってる？」 当事者のリサも問いかけてくる。 けれども瑞貴は譲らなかった。 「当然じゃないか。俺は高校受験のとき男子校も受けたんだ。結局は第一志望のここに入ったけどな。男どうしのチョコの受け渡し……ちょっぴり、憧れてたんだよな。だから、俺はリサ、おまえにチョコをプレゼントする」 真剣な目でリサを見つめる瑞貴。やがて、リサはゆっくりと首をもたげた。 「そっか……おいしくいただくね。ありがと」 一同からヤンヤの拍手が沸き起こった。 「次は僕だね。とにかく開けてみて」 リサが萱村覚からのプレゼントの紙包みを開くにつれ、辺りに心地良い芳香が広がっていく。 「わあっ、これは」 「香りのよいポプリの詰め合わせなんだ。気分を落ち着けるのはもってこいだよ」 「ありがとう覚。お部屋に置かせてもらうね」 模範生らしくきれいに、それでいてあっさりと用件を済ませるとは、さすが覚だ。 「僕はこれだよ。リサならきっと重宝するよな」 林翔策からのプレゼントは、ＵＳＢ端子用のメモリースティックだった。 「ありがとう、すぐに使わせてもらうよ」 そう言うや早く、リサはカバンから自分のノートパソコンを取り出して、ＵＳＢ端子にプレゼントのスティックを差し込んだ。さすが守護騎士団のＩＴ専門家。 「わっ、何この画像ファイルは……もしかして私のイラスト？ うわあ、すごくキレイ」 「ピンポーン。これもプレゼントだよ。魂こめて描いたんだから大切にしろよ」 「どうもありがとうね。でも……空き容量、もう１メガもないんだけど」 「ハードディスクにコピーして消せばいいだろ」 「だめっ。せっかく翔策が私のために書いたのに、消せるわけないでしょ」 翔策のプレゼントは役に立たなかったのか。いや、リサが気に入っているのだから外野は何も言うまい。 「次はあたしね。はい、どうぞ」 小出史枝が、心なしか緊張した面持ちでリサの前に立ち、紙箱を手渡す。 「あれ？ 史枝さんカチコチだね。どうしたの……きゃっ！」 包みを開いて箱を開いたとたん、リサは赤面して箱を閉じたのであった。 次の瞬間、瑞貴の怒号が飛んだ。 「おい小出、中身は何なんだ！？」 「男の子のアレを矯正する下着。リサってきっとそうじゃないかなって思ってさ。通販で買ったの。中身秘密で送ってくるってわかっていたけど、家族にばれないかドキドキしたね」 あっけらかんとした表情で、しれっと答える史枝。 「ふざけるな。小出、お前は男の気持ちって考えたことあるのか？ 男を好きになったことってあるのか！？ あんまりだぞ！」 歯を食いしばり、無言でうつむいたままのリサ。瑞貴は半泣きになりながら、史枝の胸倉をつかみ上げる。 そこにろろみが割り込んできた。 「わあっ、ごめんリサ、ごめん瑞貴。史枝だって軽いいたずらで済むかと思ったんでしょ。あたしに免じて許してね」 「済まないよ。ろろみさんには悪いけど、これは男の問題なんだ」 自分の手でも仲裁できない。ろろみは一瞬ひるんだものの、すぐに思いつくところがあって、小声で瑞貴にささやいた。 「ここだけの話ね。あたしのマネージャーで史枝のイトコの小出さんね、もう二十六なんだけど、これ使ったおかげでアレが直ったのよ。それも史枝がプレゼントしてくれたおかげでね」 この際だからと、ろろみは口から出まかせを言いまくった。どうせ恥をかくのは伸一郎、自分自身なんだから。 おふざけ気味なところがある史枝からならともかく、まさか守護の対象であり校内では真面目なろろみからこんな話を聞くとは、瑞貴も予想外だった。 「ねっ、男の問題じゃないのよ。お願い、史枝を許してあげて」 「……わかった」 瑞貴がうなずくと、史枝もリサと瑞貴、そしてろろみに謝罪した。 それでも問題の下着は、リサが有効に活用することになったのだが。 「最後はあたしからね。リサなら、なんだかわかるよね？」 微風ろろみからのプレゼントは、液体が入った大小さまざまなビンだった。 「これ……基礎化粧品？ 化粧水とか美容液とか」 「そう。ＵＶ対応よ。これからだんだんと陽射しが強くなるから、今のうちから対策しておけば夏には色白美人になれちゃうよ」 「ありがとう。今夜からさっそく使わせてもらうわね」 リサははじめ戸惑ったものの、すぐにろろみの言うことを理解した。 男の子だけれどもきれいになりたい。それはリサの変わらぬ願いだった。男がそういう欲求を持つことは、決して後ろめたいことではないのだ。 「でも、ろろみさん。十七歳でＵＶ対策ですか？ なんだか年寄りじみてはいませんか。おもしろいなあ、ろろみさんは」 覚の突っ込みにドキリとするろろみ。所詮は二十五、いや二十六の人間の考えることなのか。 「でも、ＵＶ対策は若いうちからやったほうが……あたしももうすぐ十七になるし……十九日があたしの誕生日だから、どうかよろしく！」 言い訳になってない言い訳をするろろみに、それでも五人は拍手をしてしまうのであった。 （了） |