ナーズウィッチ晴子ちゃんマジカルと
〜番外編〜 晴子ちゃんＶＳ小麦ちゃん＠コミケット
作：こうけい
※本作品はアニメ『あぃまぃみぃ！ ストロベリー・エッグ』と、アニメ『ナースウィッチ小麦ちゃんマジカルて』の、キャラクターおよび設定を使用しております。
ここは東京最大の国際展示場、東京ビックサイド。
濁点の位置は間違いではない。実在の固有名詞を使うときには、いろいろ大人の事情があるのだ。
巨大な逆ピラミッド形シンボルタワーの脇をかすめて、新交通「ゆりかも」が通過していく。
ゆりかも。脱字ではない。これも大人の事情だ。
そのシンボルタワーの下をくぐる、大きな荷物を持った無数の人々の中に、われらが晴子たちがいた。
「ひびきミェンミェー（先生）、早く早く！」
「ちょっと二人とも、なんでこんな重い荷物持たないといけないの」
「本って重たいんですよぉ、ひびき先生」
「本だけじゃないみゅん、まちゃたちのコスプレ衣装も入ってるみゅん」
「うひゃあ、そりゃまいったなあ」
青鞜三ノ宮学院中等部２年藍組の芦屋晴子と福島雅実は、部活も同じ漫画研究会。今日は顧問でありクラス担任でもある天和ひびき先生と３人で、夏のコミックマーケット６２にサークル参加するためにこのビックサイドにやってきたのである。
日本最大の同人誌即売会、コミックマーケット。
略してコミケット。更に略してコミケ。
これらも実在する固有名詞だけれど、本作ではそのまま使っている。
大人の事情といえども、不正の目的がなければ黙認してもらえることだってあるのだ。
朝９時。開場まであと１時間となると、ビックサイドのホール内も騒がしくなってきた。
『ここは「な−７４ｂ」
青鞜三ノ宮学院中等部漫画研究会です』
サークルスペースの机の上にちょこんと乗った紙に、晴子の手書きの字でそうある。
スペースに残っているのはひびきひとり。晴子と雅実はコスプレするために更衣室に着替えに行ったのだ。
「ミェンミェー、おまたせみゅん！」
晴子たちがようやく戻ってきた。
「遅いよ、８時半って約束じゃないの」
「ごめんなさいだみゅん」
「更衣室が混んでて手間取ったんです」
「ところで福島、そのメイドみたいな服はなんのコスプレなの？」
「『ＨＡＮＤ ＭＡＩＤ メイ』だみゅん」
「まちゃー、めがね付きのメイって不自然じゃ？」
「いいんだみゅん！」
「芦屋のは？」
「わたしはー、もしも『コスプレＣＯＭＰＬＥＸ』のヒロインが『あぃまぃみぃ！ ストロベリー・エッグ』の芦屋晴子の恰好をしたらー、っていうコスプレです」
「要するにうちの制服そのままでしょ？」
「……はい」
「晴子の予定してたコスプレが、規定にひっかかって禁止になっちゃったみゅん」
「なんで『逮捕しちゃうわよ！』のコスがだめなわけー？ あんな警官いないわよねえ」
「まあまあ芦屋、コミケは脅迫状とかで神経質になってるから、規制が厳しくてもしかたないわよ」
「それでー、こんなこともあろうかと持ってきた、学校の制服に着替えたんです」
「わかったわかった。それじゃあふたりとも、頒布物の会誌を並べちゃいましょ」
「はーい」
そうこうしているうちに、開場の拍手がビックサイドに鳴り響くのだった。
「それにしてもめっちゃ広いわ。芦屋たちのスペースどこかいな」
一般入場した晴子たちの同級生、梅田美保と姫島藤緒が会場内を徘徊している。
すると、藤緒は唐突に大声を上げた。
「あーっ！ わたしの本がある！」
目の前のサークルの本を素早く手に取る藤緒。その表紙には、彼女そっくりのツーテールヘアーの女の子が描かれていた。
「ええなあ藤緒。うちの本もないんかいな」
横でつぶやく美保。
ところが本を読み進むうち、藤緒の顔色に落胆と怒りが満ちていく。
「な……なによこれっ？わたし、『りゅん』なんて言葉づかいしないわよっ！それにね、わたしの出身地は仙台じゃなくて長崎なの」
本を机に叩き付ける藤緒。
「そんな無茶な。えみりゅんはこれがオフィシャル設定ですよ。長崎っていったら遠藤晶でしょ？晶サークルは隣りの島にあります」
「晶ってだれよお！？」
「そんなこと言ったって……」
「とにかく、これからは『りゅん』禁止！ダメ！き・ん・し！！」
怒り狂う藤緒に、サークルの人は戸惑うばかり。
そこは、ギャルゲー『センチメンタルグラフティ』のサークルが集まるエリアだった。
「へえ、ここが企業ブースなのね」
ひびきたち３人は、応援に来た樟葉楓子と春日野道聖子にサークルスペースを任せて、西ホール４階の企業ブースにやってきた。
参考までに、占いで方角が悪いと出たために、御影愛はコミケには来ていない。
「それにしても、ずいぶんとエロゲーに偏りすぎてないかしら」
顔をしかめるひびき。
「わぁー、とらハだとらハ！」
晴子が『とらいあんぐるハート』のグッズに目をつけた。
「ちょっと芦屋！ それは１８禁ゲームよ。中学生は見ちゃだめ！ ああ、あたしが付き添っててよかった」
「じゃー、全年齢版があるＫａｎｏｎだったらいいですよねぇ、先生？」
水を差された晴子が不平をたれる。
「まあ、そうだけど……。なんだか１８禁の趣旨がわからなくなってるような……」
「そもそもー、最近の１８禁ゲームは大きい市場で売りたいためにわざわざエロを入れてるようなもんですからねぇ」
「でもＫａｎｏｎグッズの列に並んでたら時間がなくなるみゅん！」
雅実がふたりのつぶやきに割って入った。
「そうそう、福島の言うとおり、ほかのブースを見てみましょ！」
すると人の壁で通せんぼ。どうやらイベントステージらしい。
「なんなの？ この人だかり」
「配置図を見るとぉー、東芝デジタルフロンティアブースらしいですよ、先生」
「あーっ！ まちゃたちのアニメ関連の会社だみゅん！」
「福島、静かにね」
東芝デジタルフロンティアは、アニメ『あぃまぃみぃ！ ストロベリー・エッグ』の制作に関係した会社として名を連ねている。
３人がステージ脇を見ると、「『ナースウィッチ小麦ちゃんマジカルて』イベント」と垂れ幕があった。
「へえ、まちゃたちみたいな魔法使いがいるみゅんね」
「小麦ちゃんかぁ。『ソウルテイカー』とかいうアニメにもそんなキャラがいたけど、最近流行りの名前なのかもね」
「うんうん、ちょっと前だったら"さくら"って名前のキャラが目立ってたよね。カードキャプターさくらの木之本桜とかサクラ大戦の真宮寺さくらとかストリートファイターＺＥＲＯの春日野さくらとか」
「うわぁ、ひびき先生、オタクネタを勉強したみゅん？」
「まだまだー、この程度では入門レベルですけどねー」
「きついわね、芦屋は」
そのとき、司会のおねえさんの声が聞こえてきた。
「さあ、『ソウルテイカー』から飛び出した小麦ちゃんが大活躍！」
「ええっ！？！？！？」
３人はびっくり仰天。
ステージに立っているのは、『ソウルテイカー』のレギュラーキャラだったナース、中原小麦役の声優の桃井はるこ。彼女がナースを模したコスプレをして「ナースウィッチ小麦ちゃん」を名乗っていたのである。
余談ながらその隣りには深江が立っていて「ムギまる」を名乗っていた。サークルブースにいるはずの深江がなぜ？（答：声優が同じだから）
さらに、司会のおねえさんは、以前に晴子たちナーズウィッチの手でＴＳさせられた五地荘の住人、森小路だったりする。
ひびきたちの顔色が最初蒼ざめ、そして見る見る怒りの色へと変わっていった。
「ソウルテイカあぁー？」
「ソウルテイカーみゅん？」
「あのソウルテイカーですって？」
『ソウルテイカー』と『あぃまぃみぃ』は深い因縁関係にある。
東芝デジタルフロンティアやパイオニアＬＤＣなど、両者の制作会社はかなり重なっている。
本放送は共にＷＯＷＯＷで、時期もかたや２００１年４月、かたや同年７月と近い。
『ソウルテイカー』は老舗タツノコプロ久々の新作アニメとして鳴り物入りで宣伝されたにもかかわらず、ふたを開けてみれば実はエヴァンゲリオンもどきの難解アニメで不評のうちに終了した。
一方の『あぃまぃみぃ』は直前に『ＨＡＮＤ ＭＡＩＤ メイ』を制作していたＴＮＫの作品ということで、当初はパンチラ色物アニメの扱いを受けていたものの、まじめに青春と性を考える内容には大きな声援が集まった。
『ソウルテイカー』がスクランブル枠だったのに対して『あぃまぃみぃ』がノンスクランブルだったことも両者の評価に影響したかもしれない。
「あんなソウルテイカーに、なんで番外編が出るってわけ！？ あたしたちに出番がないってのに」
「わたしたちのほうこそ新作を出してほしいわよぉ！ 評判を考えればそうなるはずでしょ？」
「そうだみゅん！ ナーズウィッチまちゃとか」
「なんとかしてよ東芝デジタルフロンティア、それにパイオニアＬＤＣ！」
憤慨する３人。大人の事情はどこへやら、もう実名全開、出しまくりである。
「もうがまんできない！ わたしナーズウィッチに変身しちゃうもんね！」
晴子が魔法のステッキを取り出した。
「芦屋、ちょっと待って！」
「なによ先生？」
「コスプレ更衣室は、となりの西３ホールよ！」
「ズルッ！ 今は緊急事態ですよぉ！ それに、ひびき先生だったら更衣室はレセプションホールなんじゃ？」
「あのねえ、芦屋こそボケる暇はないでしょ！？」
「それじゃ、まちゃ、ひびき先生、いくわよ！！！」
晴子が呪文を唱え出した。
「それより若女将、ちょっと聞いてくれよ。
桃井はるこ通のわたしから言わせてもらえば今、桃井はるこ通の間での最新流行はやっぱり、
芦屋晴子。これだね。
『ソウルテイカー』と同じパイオニアＬＤＣ関連のアニメ『あぃまぃみぃ！ ストロベリー・エッグ』のサブキャラ、青鞜三ノ宮学院中等部２年藍組の芦屋晴子ちゃんをヒロインにして、魔法少女に変身させる『ナーズウィッチ晴子ちゃん』。これが通のリメイク要請企画。
芦屋晴子ってのはコスプレオタクでコミケオタク、髪型もいっしょで、どーみてもモデルは桃井。そん代わりＣＶは別人の折笠奈緒美。これ。
で、晴子がオタク（ナーズ）魔法少女（ウィッチ）になって、変態ブラ男の天和響を魔法で天和ひびき先生にＴＳさせたりと人助けに大活躍。これ最強。
しかしこれを要請すると制作元のＴＮＫからマークされるという危険も伴う、諸刃の剣。
素人にはお薦めできない。
まあお前らド素人は、中古エロゲー屋で『入院』でも漁ってなさいってこった」
大盛りねぎだくギョクを注文したくなるような呪文と共に、３人は光に覆われていった……。
「あれれれ？ 客席がなんだかさわがしいですねえ。なんでしょうか、あの光は？」
ステージでは、司会のおねえさんが目をまるくしている。変身が進むにつれて、ステージそでのスタッフとひそひそ話。
「こよりちゃんの登場、まだですよね？」
そうこうしているうちに、３人の変身が完了した。
「みんなの日ごろの不満、わたしたちナーズウィッチがオタッキーに解決します！」
赤いゴスロリ服の晴子、水色のリボンたっぷりの服の雅実、そしてタイトでシックな黒服のひびき。
さっきの派手な変身のためか、小麦ちゃんイベントの観客のかなりがこちらに注目している。
「さあ森さん、挑戦よ！」
司会のおねえさん、つまりは森に視線を向けて、ひびきがひとこと付け加える。
「こ、これは……！？ 小麦ちゃんに、新たなライバルが登場です！！！ さあ、ステージに上がってもらいましょう！」
さすが森、あっさりと状況を理解した。これなら名司会になれそうだ。
「おもしろーい！ モモイも萌え萌えだぞい！」
小麦ちゃんとしてステージに立つ桃井はるこもすっかり乗り気だ。
「あなたがたのお名前は？」
司会が晴子たちにマイクを向ける。
「ナーズウィッチ１号、晴子ちゃんですぅ。痛いって言わないでくださいよぉ」
「２号のまちゃだみゅん」
「３号、天和ひびきです」
「はるこ同士ですね、小麦ちゃん」
晴子が小麦を一瞥すると、小麦も鋭い笑みを返す。お互いが同類であることを瞬時に理解したようだ。
「さあ、あぃまぃみぃとソウルテイカーの威信をかけて、わたしたちナーズウィッチと勝負しようじゃありませんか！」
「望むところよ！ ナース対ナーズ、受けてたちましょう！」
「あのぉ……こよりちゃんとの戦いは……」
「ムギまるは黙ってて！」
脇でおどおどとつぶやくムギまるを一蹴する小麦。
「それじゃ客席のみんな、揺れるから気をつけるんだぞい！」
ズズズズズズ……。ズズズズゴゴゴゴゴッ！
開閉式ではないはずの西４ホールの屋根が、なんと左右に開いていった！
照りつける真夏の太陽。
「むぎむぎっ！ さあ、シンボルタワー変形！」
ギシギシギシギシ……ドグヮアアアアアッ！！
「波」をかたどったといわれる、逆三角形を並べた形のシンボルタワー。開いた屋根越しに見えるそのタワーが、音をたてて激しく動きはじめた！
会場中に響きわたる悲鳴と驚愕の声。
「これはいったい！？」
「ナースロボ、萌え萌え〜！ さあ晴子ちゃん、対抗できるかな？」
小麦の力で、なんとシンボルタワーが巨大人型ロボットになってしまったのである。
「腕はこれを拝借するぞい！」
ビックサイドの南側にある“ゆりかも”の車庫から、２編成の車両が飛来する。
ガッチャーン！！ ナースロボの胴体にくっついて両腕となったのだ！
「こんなことするんだったら、ソウルテイカーを召喚させればよかったのに。小麦ちゃんって変わってるみゅん」
「そればかりは桃井さんもプライドが許さないんじゃないのかしら？」
我を忘れて唖然と見上げるナーズウィッチの３人。
「……それより芦屋、いったいどう対抗するのよ！？」
「まかせてひびき先生！ わたしたちにだってロボはあるんだからぁ！ さあ開け、北１駐車場！！！」
晴子のステッキから出た光線は、“ゆりかも”の回送線と東ホールの上を弧を描いて越え、すでに一般行列もはけて人もまばらな北１駐車場のアスファルトを直撃した。
ズザザザザザザザザザザザ…………！！
左右に開口するアスファルトの下から、もう一体の人型ロボットがせりあがってきた！
「これがわたしたちのナーズロボよ！」
会場内にはいつしか『上を向いて歩こう』の歌が流れ、スタッフたちが焦りの表情を見せてきた。
「ふう。癌研病院が建つ前に、あのロボットが日の目を見るときが来たか。製作資金が無駄にならなくてよかったねえ」
ビックサイドから遠く離れた五地荘では、三条るるがマターリとお茶をすすっていた。
巨大ロボット２体の戦いの舞台はイーストプロムナードへと移っていた。
「必殺ゆりかも、パーンチ！」
小麦の乗り込んだナースロボが放つ、“ゆりかも”車両の衝撃！
「これでどう！？」
晴子たちの乗り込んだナーズロボは、国際展示場駅の幌馬車風屋根をはぎとって盾にする！！
「今度はこっちの番よ、のこぎりアターック！」
晴子のナーズロボがビックサイド入口の巨大のこぎりオブジェを引っこ抜いて振り回す！
「だったらこうするぞい！」
ＴＦＴビル南正面の壁面をはぎとる小麦のナースロボ、そしてのこぎりの歯を受け止める！！
「むぎむぎ、援軍召喚！ 出でよ、ガッチャマン！！！」
小麦はついにタツノコプロの他キャラまで戦いに巻き込んだ。
「うわあーっ！ 反則だみゅん！」
「あなたたちも出せばいいんだぞい！」
「でもぉ、タツノコとＴＮＫじゃちょっとー……」
「落ち込まないでよ、芦屋！ 大丈夫、あたしたちにはＴＳ魔法があるでしょう？」
ひびきが輝くまなざしで、晴子と雅実に語りかける。
「そうだったわね！ ひびき先生！」
“大丈夫”のひとことに、晴子の闘志は大きく復活した。
『あぃまぃみぃ』本編ならば、ここで『Ｄｅａｒｅｓｔ』が流れることだろう。
「ガッチャマン、参上！」
「ＴＳ光線、発射だみゅん！！」
「うわっ！」
５人の科学忍者隊のうち、白鳥のジュン以外の４人がナーズロボのＴＳ光線を浴びた！
「ジョー……意地ばっかり張っててごめんなさい。
あたし、ずっとあなたのことが……」
「何を言うのよ健、自分に正直になれなかったのはあたしのほう。
もう、絶対あなたを離さないわ」
「うわあああん！ ひどいわこんなのって！！」
ＴＳした健とジョーがレズ化して抱き合う。隣りでは、ただひとりＴＳを免れたジュンが大声で泣き叫ぶ。
「うひょー、柔らかい胸、もみもみだーっ！」
自分の胸をもみながら悦に浸る竜。
色気のついた甚平は、コミケ会場へ入っていき男漁りに励む。
「あ、あなた、おきれいですね！」
「あらぁ、それほどでもなくてよ、うふっ」
「むむむ、やるわね！ どんどん召喚しちゃうぞぉ！」
小麦が叫ぶと、タイムボカン、ムテキング、マクロス……、タツノコアニメのキャラが続々出現！
「わたしたちも、ＴＮＫの技でいっちゃうんだからぁ！」
晴子のステッキが放った光線は、タツノコキャラたちのコスチュームをへたれさせていった！
「なに！？ なにが起こったんだぞい！？」
「あーあ、暑い中のコスプレは疲れたなぁ」
なんと、タツノコキャラたちから“中の人”が出てくるではないか！ 『こすぷれＣＯＭＰＬＥＸ』の部員たちのコスプレに変わってしまったのだ。
「今度は小麦ちゃん、あなたに縮小ＴＳ光線発射よぉ！」
「うわっ！」
晴子の放った光線は小麦に避けられ、西ホールアトリウムを直撃した！
「あれれれれれれれ〜〜〜〜！！！！」
西ホールアトリウム整理の男性スタッフたちの体がみるみる小さくなる。そして服装は赤ベースのメイド服に！ そう、『ＨＡＮＤ ＭＡＩＤ メイ』である。
「エスカレーターは、歩かないでくださーい！！！」
「歩かないで、ねっ」
ＴＳして１／６サイズに小さくなっても、彼ら（彼女ら？）は参加者への注意を連呼しつづけるのだった。
「あーっ！ 深江、こんなところに」
「姫島こそ！？」
舞台は館内に戻って、企業ブースへやってきた藤緒が、ムギまるの深江とばったり会ったのだ。
偶然にも、会場内には『夢の中へ』が流れ出す。
「深江……、あなたが、あたしの探し物、ね」
「どうせ暇だし、そこにいていいぜ」
「わたしも暇だわぁ」
本当なら今日の『小麦ちゃん』ステージで小麦と戦うはずだった、ライバルキャラの国分寺こよりが深江のとなりでぼやいていた。
「うちもや」
すっかり浮いた梅田美保がこよりに相づちを打つ。
「はぁ、はぁ……さすがバーチャリアンコね、小麦ちゃん」
「ふう、晴子ちゃん……、あなたこそナーズらしいぞい」
ナースウィッチもナーズウィッチも、戦いに疲れてきたようだ。
「もうすぐコミケも閉会だし、これくらいにしとく？」
「うん、ムギまるも待ってるし」
「わたしたちも、楓子たちが待ってるもんね」
傾く夕陽を背に、１０年前の荒れ地に戻ったような臨海副都心で、晴子たち３人と小麦は堅い握手を交わす。
「それじゃー最後に、メディカル萌え萌えシャワーだぞい！！」
「ナーズウィッチもいくわよ、マターリ神降臨ストリーム！！」
ふたつのステッキからそれぞれ飛び出した、愛と癒しの光線が、破壊された建物を修復していった。
「うわーん、ひびき先生も晴子ちゃんも、どこへ行っちゃったのぉ！？」
「困りましたわね、藤緒さんたちもいらっしゃらないし」
サークルスペースでは、楓子と聖子のふたりが当惑しながら仲間たちを待ちわびていたのだった。
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