少年！　クイーン（改訂版）
作：こうけい



「傭兵募集　来たれ少年少女」
こんな謳い文句につられて、俺は戦場なんかにいるわけだ。

俺の家は貧しい大家族。上の学校なんて行かせてもらえるはずがない。
だから、食い扶持を減らすため、俺は家を出て傭兵になった。
募集されてたのは少年少女だってのに、結局選ばれたのは男ばかり８人。

でもな、兵士なんて所詮は王と女王の手下じゃないか。それも最下級の。
色気のまるでない最前線で、次々と敵に倒される仲間たちを見ていると、どうして俺はここにいるんだと、自分を小一時間問い詰めたくなる。

あっ、斜め前方に敵が！　俺より強い城兵だ。
ダダダダダダッ！　俺は反射的に小銃を向ける。
国から支給されたこの銃、なぜか斜め前にしか撃てないから弱っちまうぜ。
敵が倒れる。俺は進んで、その敵の持ち物をあらためる。
目の前で人が死んだというのに、冷静でいられる俺。哀しい定めだな。

そのときだった！　なんと目の前に、空から光が下りてきたのだ。
「わたしは女神プレイア。あなたの栄誉を讃えるため、降り立ちました」
言葉とともに、体の透き通った女性が光の中から現れる。
「な、なんだよおまえは！？」
「あなたは見事敵陣奥に突入しました。その栄誉を祝して、あなたを好きな人物に変身させましょう」
よく見れば、俺はいつの間にか敵陣のいちばん奥に入っていたのだった。
「好きな人物にか？　……じゃあ、俺を王にしてくれ。この国の王に」
しかし、女神プレイアは首を横に振る。
「申し訳ありません。王にだけは変身させられないのです。
王以外でしたら、どんな人物にでもしてさしあげるのですが」
「なんだよ、話が違うじゃないか。
まあいいか……だったら、この国で最強の人物にしてくれ」
「最強の人物ですね、かしこまりました。みんなそうおっしゃるんですよねえ」
そう言うと、プレイアは姿を消した。

「ん……んはぁ！？」
突然、俺の体に悪寒が走った。
体がぐんぐん縮んでいく。それでいて、胸には錘をぶら下げられたような重みが！
身につけているものも変わっていった。安物の迷彩服が白くなって、まるで風船のように布地が膨らんで……。
まさか、これが最強の人物というわけか？

そこへ、僧侶と騎士が現れた。俺たちを最前線に追いやって、のほほんと暮らしてるやつらだ。
「あ、あなたは！？」
やつらは、俺を怪訝そうな目で見る。
「僧侶どの、騎士どの、どうなされました？」
俺は、一応の敬語を使ってやつらを呼ぶ。
どうしたわけか、まるで女のような高い声になっちまったけれど。

「あなたは……５年前に行方不明になった、ナナシー王女ではありませんか！」
「間違いない！　ナナシー王女様だ！」
やつらの俺を見る目が、がらりと変わった。
「どういうことだ！？」
「王女様、まだ気づきませぬか」
僧侶が差し出した手鏡を見ると、そこには華やかに着飾った、俺とは似つかぬ美しい少女がいた。
この顔、見覚えがあるぞ。……ナナシーって王女、確かにいたよな！　国中に尋ね人のお触書が出てたじゃないか！
「じゃあ、俺が……ナナシーってことか？」
「王女様、俺などという言葉遣いはおやめください！」
あまりの事態に、俺はただただ震えるばかり。

「ああ、神よ。この再会は奇跡だ！
……そうか、神は、彼女を新たな女王に指名なされたのだ！」
「そうだ！　今の国王も女王も、俺たちを冷遇しやがる。
よし！　クーデターだ！　ナナシー王女、今からあなたがわたしたちの女王様です！」
突然、僧侶が妙なことを口走ると、騎士まで相槌を打ったじゃないか！
「俺……あ・た・しが……女王……なの？」
「もちろんでございます。さあ、敵国の兵も味方につけて、本国に攻め入りましょう！」
「神の名の下に、ナナシー女王に栄光あれ！」

クーデターなんて、聞いたことないぞ！？！？
いきなり女王にされちまって、俺、どうすればいいんだよぉ〜！？
それに、このドレス、動きにくくてたまらねえ！！　本当に長距離が移動できるのか？
女神プレイア、教えてくれぇ〜！！



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