姫神奇譚 外伝十九話
「始業式（前編）」
作：こうけい
（原案：亜希みちる）
（後編を見るにはここをクリックしてください）
４月。多くの木々が芽を吹き、春の空気が生き物たちに活気を与える時節。
生徒たちにとっては、新しい学校、新しい学年が始まるときでもある。
「母さん、急がないと遅れるよ！」
ブレザー姿の少年が、後ろを歩く母親をせかす。
少年は碧雲高校２年の三島裕紀。家が引っ越したのに伴い、新学期からこの学校に転入することになっている。
今日は始業式なので、転入の手続きをすませるために母親といっしょの登校だ。
碧雲の制服をまだ注文していなかったので、前の学校の制服であるブレザーを着ている。
----------
そのころ、碧雲高校の校長室では騒ぎが持ち上がっていた。
「校長、どうして転入許可を出してしまったのですか」
裕紀の担任になる２年４組の教師が、校長に詰め寄っていた。
「今日うちのクラスに転入してくる三島裕紀、この生徒が男子だったなんて！わが校は女子校ではありませんか」
「…すまない。向こうから送られてきた書類には女子と書いてあったし、名前も女子に思えたから、問題ないと判断したんだ」
「三島、裕紀ですか…、確かに私も女子だと思い込んでましたよ。でも、書類の内容に疑問がありましたので、今朝向こうに問い合わせてみたんです。そうしたら、三島裕紀は男子で、おまけに向こうは男子校だというではありませんか」
ここで、校長の机の脇に立つ教頭が口を開いた。
「向こうのミスですね。よりによって男子生徒の書類を女子校に送るとは」
「教頭、確かにそうですけど、その書類を受け入れたわが校にも責任はあります。転出元が男子校だと気がつかないなんて」
「三島さん、いや、三島くん本人には連絡してあるのですか」
「自宅に電話をかけたのですが、もう留守でした。間もなく親御さんといっしょに来校するでしょう」
「弱ったな…」
頭をかかえて黙りこくる校長。
「登校したら、事情を話してお引き取り願うしかないでしょう」
教頭は冷徹に言い放つ。
「そんな。彼は今日、期待に胸をふくらませながら、わが校に登校してくるのですよ。それを、あなたは男子だからって追い払うことができますか？」
熱くなる教師。
「仕方ないでしょう。わが校は女子校なんですから。彼には、新しい転入先を見つけてもらうしかありません。そのためには我々も便宜をつくさなければ」
「…確かに最終的にはそうなるでしょう。でも、それまでは彼に万全のケアを施さなければならないのではありませんか？」
「万全のケアとはどういうことですか？彼をわが校に通わせろとでもいうのですか？」
「それは…」
そのとき、校長が顔を上げた。
「もうすぐ始業式の時間だ。とにかく君たちは講堂に行きたまえ、この件は後だ。私もあとから行く」
「…重大な書類ミス…どうすればいいんだ…」
ひとりになったからといって、いい策が浮かぶわけでもない。校長は、また頭をかかえていた。
「お悩みでしょうか」
校長が顔を上げると、いつの間に入ってきたのか、和服姿の美しい女性が目の前に立っていた。
「私は姫神古都音と申します。お困りのようですね」
校長が、裕紀の件について古都音に話すと、彼女の目はたちまち輝き出した。
「わかりました。私にお任せください。校長先生は講堂へどうぞ」
何がなんだかよくわからないまま、校長は古都音の言う通りに始業式へと向かった。
----------
「あ、あれ？気分が…」
碧雲高校の校門にさしかかったところで、裕紀は不意に立ち止まった。
「裕紀？どうかしたの？」
「か、体がなんか変なんだ…うあああっ！」
母親の目の前で、裕紀の体はみるみる変わっていった。
細くなる体躯、胸から突き出るふたつの盛り上がり。
下腹部は横に広がっていき、正面の膨らみは消えていく。
セミロングにまで伸びた髪の毛が、ふっくらと丸みを帯びた顔を覆う。どこからか現われたゴムが髪をツーテールにまとめあげた。
「ちょっと裕紀！何があったの！？」
「ぼくにもわからないんだよっ！」
すっかり高くなってしまった声で裕紀は悲鳴をあげる。
肉体だけではない。服装も変化をとげていった。
内股になった脚を覆っていたズボンは、丈が縮んだかと思うと横に広がりプリーツスカートに。
ブレザーも丈が縮んでいき、前合わせのボタンが消滅する。
下に着ていたワイシャツは、紺色に変わりながらブレザーと一体化していった。襟はたちまち大きくなって、白い線が浮き出てくる。
勝手にほどけたネクタイは布地が柔らかになり、スカーフに変わって襟元でキュッと結ばれた。
碧雲高校の制服であるセーラー服ができあがったのだ。
「あああ………」
セーラー服姿の少女になってしまった裕紀は、母親と共に呆然と自分の姿を見つめていた。
校舎から、和服を着た美しい女性が出てきた。
彼女は裕紀たち親子とすれ違いながらにっこり微笑む。
「こんにちは。私、またひとつ良いことをしてしまいました」
（作者からのメッセージ）
またまた『華代ちゃん』風の姫神外伝です。
本作品は下の後編も合わせて読んでいただくと一層お楽しみになれます。
姫神様の“良いこと”のせいで女の子にされてしまった裕紀ちゃん、後編ではいったいどうなってしまうのでしょうか！？
姫神奇譚 外伝二十話
「始業式（後編）」
作：こうけい
（原案者：亜希みちる）
（前編を見るにはここをクリックしてください）
９月。陽射しはやわらかくなってきたものの、まだまだ夏の暑い空気が名残をとどめる時節。
生徒たちにとっては、長かった夏休みが終わり、新学期が始まるときでもある。
「ほらママ、急がないと遅れちゃうよー」
セーラー服姿の少女が、後ろを歩く母親をせかす。
少女は蒼天高校２年の三島裕紀。家が引っ越したのに伴い、新学期からこの学校に転入することになっている。
今日は始業式なので、転入の手続きをすませるために母親といっしょの登校だ。
蒼天の制服をまだ注文していなかったので、前の学校の制服であるセーラー服を着ている。
----------
そのころ、蒼天高校の校長室では騒ぎが持ち上がっていた。
「校長、どうして転入許可を出してしまったのですか」
裕紀の担任になる２年４組の教師が、校長に詰め寄っていた。
「今日うちのクラスに転入してくる三島裕紀、この生徒が女子だったなんて！わが校は男子校ではありませんか」
「…すまない。向こうから送られてきた書類には男子と書いてあったし、名前も男子に思えたから、問題ないと判断したんだ」
「三島、裕紀ですか…、確かに私も男子だと思い込んでましたよ。でも、書類の内容に疑問がありましたので、今朝向こうに問い合わせてみたんです。そうしたら、三島裕紀は女子で、おまけに向こうは女子校だというではありませんか」
ここで、校長の机の脇に立つ教頭が口を開いた。
「向こうのミスですね。よりによって女子生徒の書類を男子校に送るとは」
「教頭、確かにそうですけど、その書類を受け入れたわが校にも責任はあります。転出元が女子校だと気がつかないなんて」
「三島くん、いや、三島さん本人には連絡してあるのですか」
「自宅に電話をかけたのですが、もう留守でした。間もなく親御さんといっしょに来校するでしょう」
「弱ったな…」
頭をかかえて黙りこくる校長。
「登校したら、事情を話してお引き取り願うしかないでしょう」
教頭は冷徹に言い放つ。
「そんな。彼女は今日、期待に胸をふくらませながら、わが校に登校してくるのですよ。それを、あなたは女子だからって追い払うことができますか？」
熱くなる教師。
「仕方ないでしょう。わが校は男子校なんですから。彼女には、新しい転入先を見つけてもらうしかありません。そのためには我々も便宜をつくさなければ」
「…確かに最終的にはそうなるでしょう。でも、それまでは彼女に万全のケアを施さなければならないのではありませんか？」
「万全のケアとはどういうことですか？彼女をわが校に通わせろとでもいうのですか？」
「それは…」
そのとき、校長が顔を上げた。
「もうすぐ始業式の時間だ。とにかく君たちは講堂に行きたまえ、この件は後だ。私もあとから行く」
「…重大な書類ミス…どうすればいいんだ…」
ひとりになったからといって、いい策が浮かぶわけでもない。校長は、また頭をかかえていた。
「お悩みでしょうか」
校長が顔を上げると、いつの間に入ってきたのか、和服姿の美しい女性が目の前に立っていた。
「私は姫神古都音と申します。お困りのようですね」
校長が、裕紀の件について古都音に話すと、彼女の目はたちまち輝き出した。
「わかりました。私にお任せください。校長先生は講堂へどうぞ」
何がなんだかよくわからないまま、校長は古都音の言う通りに始業式へと向かった。
----------
「あ、あれ？気分が…」
蒼天高校の校門にさしかかったところで、裕紀は不意に立ち止まった。
「裕紀？どうかしたの？」
「ママ…あたし、なんだか…また体が変わっちゃいそうで…怖いの！」
新しい学校の校門を通るというシチュエーションと共に、５ヶ月前のできごとが不意に脳裏によみがえってきたのだ。
そして、校舎からは和服を着た美しい女性が出てきた。
「あ…あのときと同じだ！ママ！助けて」
母親にしがみついてブルブル震える裕紀。今まで必死に克服しようとしていた、彼女の心の傷口が疼き出した。
「これ裕紀、落ち着きなさい！高校生でしょ！」
女性は裕紀たち親子とすれ違いながらにっこり微笑んだ。
「こんにちは。私、またひとつ良いことをしてしまいました。
それに、今度はもうあなたがたには迷惑をかけませんでしたよ」
すれ違いぎわ、女性が優しく裕紀の頭をなでると、裕紀の動揺は自然と落ち着いていった。
「ごめんね、ママ。行こう」
裕紀は母親から離れると、新しい学び舎へと再び歩きはじめた。
----------
講堂では、１０００人あまりの全校生徒の前で、校長が新学期にあたっての訓示を述べていた。
「…諸君には、蒼天男児の名に恥じない正々堂々とした態度で、この長い２学期に臨んでもらいたい…」
「あれ？俺、なんだか気分が…」
講堂の最後列に立っていた３年生たちが体に異変を訴えはじめた。
「俺もだ。…む、胸が熱い！」
「痛っ！腰が痛い！…股もなんか変だぞ！」
「おまえ、背が縮んでないか？…わっ、俺も？」
生徒たちの体が、急激に女子のものへと変わっていったのだ。
胸はふくらみ、股の間のものはなくなり、体は丸みを帯び、髪は概ね伸びていった。
「うわあっ、服まで変わってく！」
制服の白いカッターシャツの襟が、急に伸びるように大きくなり、紺色のセーラーカラーへと変形する。シャツはボタンが消えて白いセーラーブラウスとなり、水色のスカーフが浮き上がった。
下の黒いズボンも、紺色のプリーツスカートに姿を変える。
それは、裕紀の着ている夏用セーラー服と同じものだった。
「きゃあーっ！どうなってるんだ！？」
「な、ない！アレがない！」
「まさか俺、女に！？そんなのいやだよ！」
生徒たちの悲鳴は、女子のように甲高くなっていた。
講堂の中央部に立っていた２年生たちもざわつきはじめた。
「おい、後ろから女の子たちの悲鳴がするぞ！」
「どうしてここに女が？」
「…俺も、ちょっと具合が…わわっ！？」
彼らもまた、女性化が始まっていたのだ。
「うわああーっ！胸が、腰が！」
「あああ……女の声は、そういうことか！」
「ま、前のやつらも変わっていくぞ！」
講堂の後ろから手前に向かって、あれよあれよという間に１０００人あまりの生徒たちの姿が変わっていった。
上から見た服装が白いカッターシャツから紺のセーラーカラーへと次第に変わるさまは、ステージからはまるでドミノ倒しのような壮観だった。
それに対応するように、悲鳴の声も次第に高くなっていく。
校長は訓示も忘れて、ただただ唖然と白から紺へのドミノ倒しを見つめていた。
姫神様にも学習能力はあったのである。
（おまけ）
姫神様の女性エントロピー増大の法則。
第一法則：
１０００人の女子校に１人の男子を転入させれば、１００１人の女子校になる。
第二法則：
１０００人の男子校に１人の女子を転入させれば、１００１人の女子校になる。
（感想用掲示板はこちら）
（解説はこちら）
戻る
