姫神奇譚　外伝十八話
「Ah! My Goddess」
作：こうけい
（原案：亜希みちる）


　男はうどんの出前を頼むために、電話をかけていた。
　ピ・ポ・パと。

「毎度ありがとうございます。幸せと真心でご奉仕する姫神サービスセンターです」
「あっすみません、間違えました」
「いえ間違いではありません。ただいまからそちらにお伺いします」
「どうなってるんだ？」

　男が受話器を置いたとたん、壁が妖しい光を発しはじめた。そして、壁から着物姿の美しい女の人が抜け出してきたではないか！

「お待たせしました。姫神サービスセンターの姫神古都音と申します」
「な、なんだあんたは！？」
「お電話ありがとうございました。私が、お客様の願いを３つまでかなえてさしあげます」
「あのさあ、俺、うどんを出前してほしかったんだけど。どうしてあんたが来るわけ？」
「はい、うどんでございますね。かしこまりました」
　次の瞬間、男の目の前に一杯のうどんが現われた。

「なるほど…あんたの力はよくわかった」
「姫神一族はこうみえても女神なのです。あとふたつ、願い事をどうぞ」
　うどんを食べて満腹になった男はしばし思案する。

「そうだねえ…英語がペラペラしゃべれるようになりたいなあ」
「かしこまりました」
「そしたらその英語力で、グラマーで金髪な女の子の体を自由にしたいなあ」
「かしこまりました。以上でよろしいですね」
「はい…うわっ！」

　男は突然、体に異変を覚えた。
「ああああ………“Ah! Ahhhhhhh!”」
　小柄だった男の全身がむくむくと盛り上がっていく。
　背丈も大きくなったが、それ以上にバストとヒップが激しく膨らんでいった。
「“Ah! Ah! Ahhhhhhhh!”」
　猛烈な肉体の変化に、今まであげたこともないような悲鳴をあげる男。
　服装もそれに合わせて、体型を強調した派手なスーツへと変わる。少しかがめば胸の谷間が見えそうなほどきわどい露出だ。
　下半身のほうはといえば、はちきれんばかりにタイトなミニスカートがヒップを覆っていた。

　男の顔つきも大きく変わっていった。
　瞳の色は深みを帯びた青色になり、鼻と唇はつんと前に突き出て、顔全体の彫りが深くなっていた。
　髪は金髪に変わりながらぐんぐん伸びていく。
　男は顔を真っ赤にしながら金切り声で異変を訴えた。
「“So what?...Why English!?”」
　そう、男はグラマーで金髪な白人女性になってしまったのだ。同時に、英語しか使えなくなっていた！

「“What has happened in my body?...Ah! My chest is swelled! Well...Ouch!”」
（体に何があったのかしら…あっ！胸が膨らんでる！ん…痛い！）

　女は自分の胸をもみながら英語で取り乱している。

「“I guess...I've become a female? Why? Awful! Incredible!!”」
（ということは…あたし女になっちゃったの？どうして？怖い！信じられない！）

「いかがです。願い通りになりましたよね？」

「“I...I can't see what you say! Please speak in English!”」
（あ…あたし、あなたが何を言ってるかわからないの！英語で話して！）

「も、申し訳ございません。私は英語はわからないもので。
とりあえず、３つの願いはかなったようですので、それでは」
　古都音は壁へと消えていった。

「“Ah! Come back! Make me back to a male! Make me able to use Japanese! I've no idea what to do!”」
（ああっ！戻ってきて！あたしを男に戻してよ！日本語を使えるようにしてよ！あたし、もうどうしたらいいかわからないの！）

　壁をドンドン叩く音と、英語で泣き叫ぶ女の声が部屋に空しく響いていた。

「“Ah! My goddess!”」
（ああっ！女神様っ！）


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