連想ゲーム２１

作：こうけい


某公共放送テレビ、夜７時３０分。
オープニングタイトルに続いて、司会者の第一声がスタジオに響く。
「みなさまこんばんは！『連想ゲーム』がお茶の間に帰ってまいりました！」（拍手音）
往年の人気クイズ番組が、以前と同じ時間帯で今週から『連想ゲーム２１』として復活したのだ。

まずは両チームのメンバーが紹介された。
　男性チーム女性チーム
キャプテン山賀　孝三（小説家・５３歳）岸田　マユコ（エッセイスト・５６歳）
解答者１関　隆太郎（作曲家・４８歳）早瀬　かほる（歌手・４４歳）
解答者２天原　こうすけ（マンガ家・４０歳）大河原　遥（女優・４０歳）
解答者３桜井　彰（歌手・３５歳）北原　美佳子（デザイナー・３２歳）
解答者４佐々木　慎之介（モデル・２５歳）七尾　冴子（キャスター・２６歳）
解答者５垣内　遼（俳優・２２歳）手塚　美優里（タレント・２０歳）

続いて、司会者がゲームのルールを説明する。
「ゲームは男女各５人の団体戦です。両チームから１名ずつが交代で、ヒントから連想される言葉を答えていただきます。ただし５秒以内に答えられない場合は、解答権が相手側に移ります。
得点はひとつ目のヒントで答えられれば１０点で、ヒントを重ねるごとに１点ずつ減っていきます。１０のヒントで答えられないとその問題はお流れとなります。
…と、ここまでは昔の『連想ゲーム』と同じですが、『２１』ではあっと驚く新しい演出が用意されております。それが何かは…見てのお楽しみです！」（拍手音）

画面は不安そうな表情を隠せない解答者たちを映し出している。
新しい演出が何かは、彼ら彼女らにも本当に知らされていないようだ。

第１問は関　隆太郎と早瀬　かほるの対決。先攻は関だ。
山賀キャプテンが関にヒントを出す。
山賀「移植」
関「脳」
拍手音がスタジオに響く。いきなりの正解で、男性チームが１０点を先取した。

第２問は大河原　遥と天原　こうすけの対決。今度は女性チームの大河原が先攻で、岸田キャプテンがヒントを出す。
岸田「セールス」
大河原「レディ」
これまた一発で正解！女性チームの１０点獲得でゲームは振り出しに戻った。

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十数問を消化したところで点数は４９対４３、女性チームがわずかにリードしている。
「チャイムが鳴りました。『トレードゲーム』の時間です」（拍手音）
これは昔の『連想ゲーム』にはなかったクイズだ。司会者がルールを説明する。
「まずキャプテンが自分チームと相手チームからトレードしたいメンバーひとりずつを指名します。
次にトレード対象以外の４名のメンバーが、３つのヒントから連想されることわざを答えていただきます。正解ならばトレード成立、不正解なら不成立です。
まずは男性チームへの出題です。キャプテン、どなたとどなたをトレードしますか？」
「えーと、垣内　遼くんと手塚　美優里さん」
山賀キャプテンは遼は戦力にならないと判断して、確実に正解を出す美優里との交換を望んだのだ。
「ではキャプテン、男性チームへのヒントをどうぞ」
「エジプト。逆転。二次災害」
遼以外の４人の解答者は、しばし話し合った末に声をそろえる。
「“ミイラ取りがミイラになる”！」
正解！トレードは成立した。

ところで、このゲームは男女対抗戦だ。異性チームの間でどうやってトレードを行なうのだろうか？まさか！？
そう、そのまさかだった！

「う、うわあああっ！体が！」
「きゃああーーっ！胸、胸、しぼむ！」
突如悲鳴をあげて苦しみ出す遼と美優里。
あれよあれよという間に、遼は目のぱっちりしたロングヘアーの女性に、美優里は鼻筋の通った茶髪の男性に変わってしまった。服装まで、今の姿に似つかわしいものに変わっている。
両チームの戦力バランスを調整するために、解答者の所属チームと同時に性別も変えてしまう。これこそ『２１』ならではの新しい演出、『トレードゲーム』なのである！

そういえば、大河原　遥は３人目の夫と離婚したばかりだし、関　隆太郎は女子大生との関係がワイドショーで取り上げられている。遼にしても、事務所を移籍して心機一転を図っているところだし、美優里はユニットの解散に伴いソロ活動を始めて間もない。
最近動きがあったために、イメージチェンジが求められている有名人ばかりが、ずらりと解答者席に並んでいるのである。
そう、『連想ゲーム２１』の正体は、有名人にＴＳによるイメージチェンジの機会を与える番組だったのだ！

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あまりに唐突なできごとに興奮さめやらぬスタジオ。しかし司会者は淡々と進行を続ける。
「トレードゲーム、次は女性チームへの出題です。キャプテン、どなたとどなたをトレードしますか？」
「垣内く…さんと手塚くんで」
美優里を取り戻したいのか、岸田キャプテンは同じメンバーでのトレードを希望した。
（みんながんばれ！俺を男に戻してくれよ！）
女性席に移った遼は目を閉じて祈る。
「攻撃。巻き添え。自業自得」
（“人を呪わば穴ふたつ”だよな！俺だってわかるぞ！）
しかし、女性チームは制限時間内に答えることができなかった。トレード不成立だ。
司会者の正解も遼の思った通り。遼に無念さがいっそう募ってきた。
（なんだよもうー！？こうなったら、女性チームのためにがんばるぞ！）
男性席では、男になった美優里が悔しそうな目で女性席を見つめていた。きっと美優里も正解がわかっていたのだろう。

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そんなこんなでゲームは後半戦に突入した。美優里を獲得したおかげか、男性チームが形勢を逆転している。
「いよいよ大詰め、ラストの『１分ゲーム』の時間となりました！」（拍手音）
「１分という制限時間の間に、順番に連想クイズに答えていただきます。得点は１問正解につき１０点です。
現在のところ１４３対１０８で男性チームがリードしていますが、１分ゲームの結果次第では女性チームにも逆転のチャンスが残されています。両チームとも気を抜かずに戦ってください。
まずは女性チームからまいります。１分ゲーム、スタート！」

岸田「人事、異動」
早瀬「転勤！」
チャイムが鳴る。正解だ。
岸田「届、あいさつ」
大河原「転居！」
正解！
『１分ゲーム』の解答には規則性がある。今回は“転”の字が入った熟語で統一されているのだ。

５人目の遼に順番がまわってきた。
岸田「地球、一年」
遼「自転！」
岸田「そうじゃなくて…太陽、一周…周期！」
遼「…公転！」
ようやく正解！
（俺、理科苦手だったんだよな…）
答えるのに７〜８秒はかかっただろうか。遼にとっては長い時間だった。

やがて、再び遼に順番がまわってきた。残り時間は５秒もない。
岸田「パス！」
キャプテンはブレーキになる遼を飛ばして早瀬に答えさせるつもりだ。しかし、直後に時間切れのベルが鳴る。
女性チームは９問正解ということで、解答者席には９個のダルマが立った。
次は男性チームの番だ。

山賀「エッチ、痴漢」
関「変態！」
正解！
男性チームの解答はすべて“変”の字が入った熟語だ。
山賀「ギア、スピード」
天原「変速！」
正解！
勢いに乗る男性チームは、なんと解答者席に１３個もダルマを立ててしまった。
これで男性チームの逃げ切り勝利は確定したかに見えたのだが……。

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司会者は意外な言葉を発した。
「ただいまの１分ゲームに違反ヒントがありました。ペナルティとして、違反ヒントで答えた解答者をダルマごと相手チームに移させていただきます」
ざわつく解答者席。
「まず、女性チームには違反ヒントはありませんでしたので、９問正解で９０点がそのまま加算されます！」（拍手音）
女性チームから歓声があがった。
「一方の男性チームですが、違反ヒントが相次ぎました。
まず、関さんの答えました“変態”のヒント“エッチ”ですが、これは変態の頭文字からとられた言葉ですので違反ヒントになります。
次に天原さんの答えました“変速”のヒント“スピード”も、速さという意味ですので違反ヒントです」
司会者は次々と違反ヒントを指摘する。山賀キャプテンはじっとうつむくばかりだ。
「…結局、解答者全員の答えた問題に違反ヒントがあったことになります。よって、男性チームの全解答者とすべてのダルマを女性チームに移させていただきます！」（拍手音）

「お、お、女になんてなりたくなーいっ！」
「キャプテンのミスで、どうして俺がーっ！ああああっ！！」
関や天原らが、うめき声をあげながら未知の痛みに苦しんでいる。
男性チームの全解答者の肉体と服装が女性のものに変わっているのだ。
もとの姿に戻った美優里は、膨らんだ自分の胸に手を当ててほっとため息をついた。
一方の女性チームは盛んに拍手を送っている。とりわけ遼の拍手の音は一段と高かった。
（わはははは。みんなが俺と同じ目に遭うのを見ると、なんだかうれしいぜ！）

「それでは最終結果を発表します。女性チームのダルマは９個プラス１３個で２２個、２２０点の追加。男性チームは０個ですので追加得点なし。加えますと、３２８対１４３で女性チームの逆転勝利です！」（拍手音）
１０人になった女性解答者は岸田キャプテンを囲んで喜び合う。
対する山賀キャプテンは、憮然とした表情でテレビカメラをにらみつけていた。

「俺、女になってよかったぜ！美優里ちゃんは戻れてよかったよな！？」
「うん、遼ちゃん。収録の後で女の子どうし遊びに行こうね！」
「おう！これからは男気のある女性タレントを目指すぞ、あたし！」


この物語はフィクションです。実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
また、クイズのヒントと解答にも特に意図はありません（爆）。



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