姫神奇譚　外伝六話
「正直者は」
作：こうけい
（原案：亜希みちる）


「いっちばんのりーっ！」
熱血高校２年Ｃ組の天野慎一が、勢いよく教室の扉を開ける。
体育の授業が終わったところなのだ。
「だれもいない教室は気持ちがいいぜ。さあ着替えるか。ん？」
自分のロッカーを覗く慎一の顔に、焦りの表情があらわれた。
「…ない！どこへいった？俺の制服！」
机の中、教室の隅、ゴミ箱…。どこを探しても慎一の制服は見当たらない。

そのとき、教室の黒板が妖しく光りはじめたかと思うと、なんと着物姿の美しい女性が黒板から抜け出てきた。
「…あ…あなたは？」
「私は姫神古都音と申します。あなた、私を必要とされてますね」
「なんのことでしょう…」
「あなたが失くされた制服は、こちらのブレザーでしょうか？それともこちらのセーラー服でしょうか？」
古都音の左手には慎一の着ていた熱血高校の制服が、そして右手にはこの学校の近所にある可憐女子高校の制服があった。

熱血高校は男子校。制服は、まさに慎一の高校生活を象徴するかのような上下灰色の平凡なブレザーだ。
一方、可憐女子高校の制服は珍しいワンピースタイプのセーラー服で、清楚な雰囲気が万人から好まれていた。もちろん、慎一からも。
ゆったり大きめのセーラーカラーは、右胸の「Ｋａｒｅｎ」の刺繍文字がアクセント。スカーフは明るい黄色、そして水色のワンピースのスカートはふわっとしたフレアータイプ。ウエストのベルトが背中で大きな蝶結びになっているのも可愛らしい。

慎一は猛烈に悩んだ。
ほしい…。可憐の制服があれば、いろいろ楽しいことができる…。
いやいや、今はそんなことを考えている場合じゃない。自分の制服がなければ、授業も受けられないのだ。
「こ…こっちです」
葛藤の末、慎一が指差したのは熱血の制服だった。

「あなたは正直な人ですね。ごほうびを差し上げましょう」
古都音がそう言うが早く、彼女の右手にあった可憐の制服が、ぱっと慎一の体にまとわりつく。
同時に、慎一の肉体が制服に見合うように変化を始めた。
ワンピースが慎一の全身を覆うとともに、みるみるうちに彼の背丈が縮んでいく。
丸みを帯びる肩、セーラーカラーに突き出る胸、フレアースカートを充たすお尻。
生き物のように動くベルトが、くびれたウエストをきりっと締め上げた。
顔や手にも柔らかな脂肪がつき、髪はさらさらのセミロングに伸びる。
慎一はあっという間に、可憐の女子生徒になり変わっていた。
「ど、どうなってるんだ…いったい…？」
そう驚く声も、澄んだソプラノボイス。
両腕には、自分のものだった熱血の制服がたたまれて乗っている。

「ほんと、正直者は得ですよね。それでは」
古都音は黒板の中へと帰っていった。

廊下から、慎一に後れをとったクラスメイトたちの足音が聞こえてくる。


（感想用掲示板はこちら）
（解説はこちら）
戻る