女珀館の若女将シリーズ
「トイレの巻」
作：こうけい
（20021023発表　20030316再録）

みなさま、こんにちは。「観光旅館　女珀館」若女将のこうけいでございます。
今回は、わたしのようなひとたちに共通の悩みについての事件です……。


警察官「警察です。若女将はご在室でしょうか」
わたし「はい？なんの御用でしょう」
帳場の外には、私服の男性警察官が手帳を見せて立っていた。横にはひとりの女性が…。
警察官「この男性が、旅館内の女性トイレに入っていましたので、建造物侵入罪で現行犯逮捕しました」
わたし「ええっ！？…さきほどＴＳサービスをお受けになられたお客様ですわよね？」
女性はこくりとうなずく。
わたし「おまわりさん、なんてことするんですか？このかたは女性ですわよ！すぐに釈放してください！！」
警察官「しかし、戸籍は男性でしょう」
わたし「わたしはこの旅館の管理者です！管理者が女性トイレに入っていいと認めたんですから、建造物侵入罪にはならないはずです。
それよりあなたこそ男性なのにどうして？」
警察官「いえ、警察権限は別ですから…」
わたし「ほんとうかしら？」

そのとき、警察官の顔色が少々変わった。
警察官「若女将、失礼、少々お手洗いを貸していただきたい。
この男性は預かっていただけますか。勝手に釈放なさったら、それこそ公務執行妨害ですから念のため」
わたし「…どうぞ。場所はおわかりですわね」
こうけい、警察官の背中になにやら木の枝のようなものを取り付ける。

小便器に立つ警察官。
警察官「ん？…ああ！？スカート？」
なんと、警察官の服装が女子校生のセーラー服に変わっていた！
スカートをめくって前を出そうとして、さらに驚愕！
警察官「ないっ！そんな！！」
いつの間にか、叫び声も甲高くなっていた。
男性客「うわあ！なんで女が入ってるんだ！？」
個室から出てきた男性客が警察官にびっくり仰天。
警察官「し、失礼！」

警察官、今度は隣の女性用トイレへ飛び込む。
女性客「きゃあーっ！！男！変態！！」
警察官が自分の姿を確かめると、上下黒のタキシードに。股間のモノもちゃんとある。
警察官「…失礼！どうなってるんだ！？」

男性客「なんだ！？バレリーナが？」
女性客「いやっ！お相撲さん！？」
男性客「ウェイトレスさん、ここ違うよ！」
女性客「助けて！男のピエロが！！」
トイレに飛び込むたびに、警察官の服装と肉体は、そのトイレと逆の性別のものに変わってしまうのだった。

大女将「舶来の服変化（へんげ）樹の力はすごいですわね」
わたし「大女将、いいアイテムをありがとうございます」

警察官「我慢の限界だ！どうすれば！！」
柔道着姿のガニ股で旅館内を走り回った末、警察官は“男女共用”と書かれたトイレを見つける。
警察官「こ、ここならっ！」
バタンッ！

数分後、トイレから出てきたのは、着物姿の仲居だった。無論女性の。
トイレの扉をよく見ると、“従業員用”と書かれていた。
警察官「も、もう変身はこりごりだ…」
わたし「でしたら、もうおしまいにいたしましょう」
いつの間にか現れたこうけいが、仲居にされた警察官の背中から木の枝を取り外す。
わたし「うちでしっかり働いてもらいますわよ。新人さん」
こうけいは帳場へ戻り、逮捕されていた客を解放した。

わたし「あっ…、わたしも催してきましたわ」
近くの女性用トイレに入り、女性客たちに会釈をしながらさりげなく戻ってくるこうけい。
仲居Ａ「そういえば、若女将は女性用をお使いになるんですね」
ひとりの仲居が質問してくる。
仲居Ｂ「若女将はどう見ても女性に見えますものね。声だって、大女将のおかげで女声ですし」
黙ったままのこうけい。奥に座っていた大女将が静かに口を開く。
大女将「いいえ、それは理由ではございませんわ。
こうけいさんがエチケットを守ってスマートに使ってらしたから、ご婦人方もやさしいのですわよ」
仲居Ａ・Ｂ「なるほど…」
若女将「ありがとうございます、大女将」
大女将「大切なのは、体の性別ではございませんわよね」

以来、女珀館の客用トイレには、こんな張り紙が貼られた。
『あなたの心の性別に合わせてお使いください　若女将』
そして、トイレの性別マークも変わった。
男または女の絵が、雲のような想像ふきだしマークに囲まれたものに。

（感想用掲示板はこちら）
（解説はこちら）
戻る