女珀館の若女将シリーズ
「Ｗ杯観戦の巻」
作：こうけい
（20020705発表）

わたし「大女将、６月だというのに忙しい日が続きますね」
大女将「旅館街の近所にＷ杯会場があるんですから当然ですわよ。
うちだってしっかり稼がせてもらわないと」
わたし「さすがに代表チームの選手はうちには泊まりませんでしたけど」
大女将「そりゃそうですわ。アクシデントで選手がＴＳされたら大事ですから」
わたし「お客様には、試合のチケットをお持ちでないかたも結構いらっしゃいますわよね」
大女将「ええ、電話予約も数分で完売するくらいですから。
チケットを手に入れられなくても、せめて会場近くまで行って試合の空気を味わいたいお客様が大勢いらっしゃるのですわよ」
わたし「ほんと、たいへんですわねえ…」

そのとき、帳場に某省の役人ご一行が現れた。
役人Ａ「予約していた某省だけど、女将、お世話になりますぜ」
わたし「いらっしゃいませ。これからＷ杯観戦でございますか？」
役人Ａ「おうよ。俺たちは特別枠で顔パスだからな」
役人Ｂ「私たちの政治的指導で、チケットはつつがなく完売。
チケットが手に入らない庶民たちがあわれでたまらないですね」
わたし「…お客様、ほかのお客様に失礼ではございませんこと？」
こうけいは思わず声を高くしてしまった。
大女将「これっ、こうけいさん。言葉を慎みなさい！役人Ａ様、申し訳ございません」
わたし「…申し訳ございません」
役人Ａ「いいんだいいんだ」

ところが、大女将は妙にすわった口調で話しはじめる。
大女将「……ところでお客様がた、ここでひとつ賭けをいたしませんこと？」
役人Ｂ「どういう賭けだ？」
大女将「本当にチケットは残っておりませんわよね？」
役人Ｃ「当たり前ですわ。わたしたちの事務能力を甘くみないでいただきたいわ」
役人Ｃは女性の服装をしている。
大女将「わたくしが、これよりこの携帯電話で組織委員会に電話いたします。
本日の試合のチケットが残っておりましたら、賭けはわたくしどもの勝ち。
わたくしどもがお客様がたの代わりに試合を観戦させていただきますわ」
役人Ａ「ほお。で、残ってなかったらどうする？」
大女将「賭けはお客様がたの勝ち。宿泊料金を無料にしてさしあげますわ」
役人Ａ「よし、その賭け、乗ったぞ！みんな、いいな？」
ほかの役人たちもうなずく。
わたし「大女将、なにを言い出すのですか！？」
大女将「こうけいさん、落ち着いて。あの装置をご用意願いますわ」
わたし「は、はいっ！でも、大丈夫なのかしら…」
こうけい、帳場を去る。

大女将、組織委員会に電話する。
大女将「もしもし…本日のチケット……売れ残りがありますか！わかりました」
役人Ａ「そんなばかな！俺に電話を貸してみろ！」
大女将「はいはいどうぞ」
役人Ａ「おう、俺だ。……なにい！手違い！？販売代理店の座席管理ミス！？」
役人Ｄ、持っていたラジオをつける。
役人Ｄ「ニ、ニュースでもやってます。空席の数を間違えたそうです！」
大女将「ほらほら、賭けはわたくしどもの勝ちでございますわね？
お役人さまがた、事務能力の過信は禁物ですわよ」
役人Ａ「…わかった。私たちの負けだ」
役人Ｃ「でも、わたしたちは顔パスで入場するのですよ。
チケットで入るわけではないのですから、あなたがたが代わりに入るなんて不可能です」
大女将「それがどっこいなのですわよ。
こうけいさん、準備はできましたか？」
わたし「はい。お待たせいたしました！」
こうけいが仲居たちに運ばせてきたものは、簡易トイレ大の箱だった。
大女将「お客様がたは、これでわたくしたちと入れ替わっていただきます」
そう、『エレキの若女将』の巻の、あの入れ替わり装置である！

役人Ｂ「これ、話に聞いたことがあるぞ。雷の電撃がないと入れ替われないんじゃないのか？」
わたし「それがですね、改造したのですわ。ゴミをエネルギーにして入れ替わりが可能となりました」
役人Ａ「あ、あわわああ…」
大女将「さあさあ、入れ替わりましょうね。わたくしは役人Ａさんのお体が好みですわ。
そこの仲居ふたり、運んでくれたお礼に、役人Ｂさん、Ｄさんと入れ替わらせてあげましょう」
仲居「ありがとうございます」
大女将「こうけいさんは役人Ｃさんと入れ替わりくださいな。
……ＴＳですわよ」
わたし「！！」
女性である役人Ｃと入れ替われると聞き、こうけいの手のひらは汗で湿った。

入れ替わり装置が４回作動した。
役人Ａ（大女将）「あわわわ…この胸、この体、この着物…」
大女将（役人Ａ）「そういうことで仲居頭さん、彼女たちの監視をよろしく頼みますわ」
仲居頭「へい、わかりました。
ほらあんた、大女将らしくしゃんとする！
数時間の辛抱なんだから！」
仲居（役人Ｄ）「行ってきまーす！」
役人Ａ（大女将）「とほほほほ…」
役人Ｂ（仲居）「どうして私らがこんな目に？」
役人Ｃ（わたし）「……でも、この体…いったい！？」

数時間後、役人たちの姿の大女将たちが旅館に戻ってくる。
大女将（役人Ａ）「ほんと、サッカー観戦はいいですわね！久しぶりにストレス発散できましたわ」
仲居（役人Ｂ）「ありがとうございます、大女将」
ふたたび入れ替わり装置が４回作動し、全員がつつがなく元に戻った。
役人Ａ「ふうっ、今日は参ったよ。大女将、ありがとう」
役人Ｄ「仲居は大変でした。民間人の苦労が少しはわかったような気がしましたよ」
大女将「そうでしょうそうでしょう。
これからは、意味が違いますけど心を入れ替えて、国民のためになるお役人さんになってくださいな」
役人Ｃ「でも、若女将。あなたのお体って…」
わたし「役人Ｃさん。同じ質問をしたかったところですわ。
ＴＳできるのかと期待していたら、わたしと同じ境遇だったとは…」
役人Ｃ「若女将。理解してもらえてうれしいです。わたしもいい役人になりますわ」
わたし「ええ、応援してますわよ」

大女将「こうけいさん。そう簡単にＴＳしたら面白くありませんことよ。ほほほほほ…」

※この物語はフィクションです。 実在の人物、団体とは関係ありませんったらありません。

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