女珀館の若女将シリーズ
「税務署の巻」
作：こうけい
（20020511発表）

ようこそ、おいでいただきました。わたしは当旅館・女珀館の若女将、こうけいと申します。
わたし、女将になり立てで、大女将や、板さんや、仲居さん、その他の従業員たちにも迷惑をかけながらも、いろいろと教わりながらも切り盛りいたしております。まだまだ未熟者ですので、いろいろ失敗などございますがよろしくお願いいたします。

先日はＴＳ税でひと騒ぎあったばかりですが、なんだかまた何かおきそうな胸騒ぎがいたします…。

男「若女将さんですね。私、税務署のほうからまいりました」
わたし「税務署さんですか、いつもお世話になっております」
男「先日、こちらでＴＳがあったと聞きます。ＴＳ税は申告なされているでしょうか」
わたし「ＴＳ税の申告…ですか」
こうけい、帳場の奥にいる大女将をちらりと見る。
わたし「本当に、税務署ですね？」
男「はい、税務署です。国税局じゃありません。
こちらの旅館が、ＴＳ税をふところに入れたままという噂を聞きましたが」
わたし「またまた、ご冗談を。ほほほほほ」
こうけいが笑っても、男はなおも食い下がる。
男「先日ＴＳされた方は仲居さんをやってらっしゃると聞きましたが、彼女に逢って話を聞かせていただけますでしょうか」
わたし「承知しました。少々お待ちいただけますか」

仲居「お待たせいたしました」
ほどなく、問題の仲居が姿を現した。
先日の“国税局からの役人”だが、女珀館の厳しい教育の結果、今ではすっかり仲居としての仕草が板についている。
男「あなたが、先日ＴＳされた方ですね」
仲居「はい。おかげでこちらで働かせてもらっております」
こうけいを横目で見ながら営業口調で話す仲居。
しかし、時折男に向けて、俺を助けてくれと哀願するような表情を見せていた。
男「仲居さん。あなたのＴＳ税について、女将さんたちから話はありましたでしょうか？」
仲居「…はい。私の給料から…」
その声を遮ったのは、帳場から出てきた大女将だった。
大女将「失礼いたしますわ。税務署のほうからきたお役人さん。わたくし、ＴＳ税は都道府県税かと存じあげておりますが」
男「はあ、それが…」
大女将「税務署は国の施設ですのよ。税務署がＴＳ税を直接徴収してましたかしら？」
わたし「…なるほど！さっきは自分から『国税局ではない』なんて言い出してますし、この男もこの間の国税局の仲間ですわね」
大女将「ご名答ですわ。さあ、こうけいさん。やっておしまいなさい」
わたし「わかりました」
男はこうけいに見据えられて、身動きがとれなくなっていた。
わたし「当旅館は、おかげさまで大繁盛してございます。まだ仲居が足りません。ぜひ、お役人さんにも、協力していただきとうございます」
こうけいがゆっくりとした口調でそう言うにつれ、男の体が心持ち細くなり、胸と腰が膨らみだした。
だぶだぶになったスーツが飴細工のように形を変えて、仲居の着物になった。
髪は長く伸びたかと思うと、後ろから髷のように結われていく。
男「ああ…わ、わたしまで…」
税務署からの役人と、国税局からの役人。ふたりの仲居が顔を見合わせる。

そのとき、ひとりの男性が玄関から現れた。
「あっ、若旦…」
男性は同じ旅館街の宿「誠展館」の若旦那、よしおかだった。
だが、若旦那は口に人差し指をおき、「静かに」とこうけいに合図する。
若旦那「失礼します。私、県税事務所のほうから来たものですが」
わたし「ＴＳ税ですね。ただいま支払いいたします。新人さん、直接いただきますわよ」
こうけいがそう言うと、新しい仲居のふところから財布がするりと抜けて、中から１万円札が２枚舞い上がった。

わたし「これで若旦那への借りはお返しできましたわね」
若旦那「こうけいの若女将。お互い、お役人さん相手は疲れますねえ。ふうっ」

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