華代ちゃんシリーズ「街路樹」
作：こうけい
（原案者・真城 悠）
＊「華代ちゃん」シリーズの詳細についてはhttp://www.geocities.co.jp/Playtown/7073/kayo_chan00.html
を参照して下さい。
秋の早朝のことだった。
街路樹の下の段ボールハウスから、ひとりの男が出てきた。
いわゆるホームレスである。
「あーあ、腹減ったー。
最近は景気が悪いせいか、レストランの食べ残しも少ないときたぜ。
おまけに同業者は日に日に増えるし、まいったなあ」
そうつぶやきながら、黄色い落ち葉の舞うコンクリートの道床に腰をおろす。
ビジネス街とはいえまだ６時前、歩道に人通りはない時間。
ひとりの小柄な女性が男の目の前を通りかけ、さっと止まった。
「あなた、お困りですね？」
「…ああ、困ってるさ」
唐突に女性から声をかけられた男は、面倒くさそうに答えた。
「ホームレス生活ももう半年。これから冬を乗り切れるかどうかも不安だけど、
今朝はなぜか腹ペコでたまらないんだ」
「なるほど。最近は本当に心の寂しい人ばかりですね」
「なんだいねえちゃん、俺を構ってくれるのかい？」
「はい。そんな皆さんの為に、私は活動しています。まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい」
そう言いながら、女性は名刺を差し出した。
『ココロとカラダの悩み、お受けいたします セールスレディ 真城 華代』
「なに、セールスレディ？悪いな、俺に金があると思うか？」
「お金は頂いておりません。お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます」
「へええ、そうかい。
だったら、俺になにか食べ物をくれないか。栄養あるおいしい食べ物をな。
とにかく今は腹を膨らませたいんだよ」
「承知しました」
とたんに、男の頭上がざわつき始めた。
街路樹の木々の葉の、こすれあう音が大きくなったのだ。
見上げると、黄色い葉の間からたわわにぶら下がっていた幾百、幾千房もの葯が、
急激にしぼんでいくではないか！
縮んだ葯は硬くなり、二股の球のようなものを形づくる。
次いで、柄を伸ばしながらぐんぐんと膨らんでいき、黄色い実をぶら下げた。
道路の左右に並ぶ木々の外形も、一様に変動をとげていた。
すらりと高く上方に伸びていた枝々が、横方向に広がり出す。
そして、にわかな実りの重みで垂れ下がる！
あっという間に黄色く熟した実が、ひとつ、またひとつと引力に引かれていった。
ボタッ！ボチョッッ！！
コンクリート上に白いものが弾けるたび、鼻を突く奇妙なにおいが道端に広がる。
しかし、ホームレスにはそんなにおいも福音だった。
「ギンナンだ！俺、これが大好物なんだよ！」
いつもより何オクターブも高い声で絶叫しながら、ホームレスはギンナンの実に手を伸ばそうとする。
「あっ、ちょっとお待ちください」
華代と名乗った女性はホームレスを制止する。
そして、いつの間にやら白魚のように細くなっていたホームレスの両手に、やさしく軍手をはめた。
「ギンナンをむくときには、手のかぶれにはお気をつけてくださいね。女性の手はとりわけデリケートですから。
あと、これもプレゼントですよ」
どこからか取り出したカセット式ガスコンロと餅焼き用の金網を、
ようやく自分の体の変化に気づいたホームレスの女に手渡し、
華代は悠然と立ち去っていった。
お久しぶりの華代ちゃんでーす！
街路樹のイチョウの木って、ギンナンのくさい実がならないようにって、
わざとオスの木ばかりを集めていることが多いそうですね。
でもそれじゃあ、オスばかりでかわいそう。それに、食に困ったホームレスさんたちだって！
だから、私がまとめてＭＴＦＴＳしてあげちゃいました！
さて、何か困ったことがありましたら何なりとお申しつけ下さい。今度はあなたの街にお邪魔するかもしれません。
それではまた。
（感想用掲示板はこちら）
（解説はこちら）
戻る
