試験問題（オリジナル版）
作：こうけい
中学３年生の森村賢は、難関私立高校をめざして受験勉強の日々を送っていた。
一流大学に通う女子大生の遠藤瑞恵が、彼の家庭教師を引き受けている。
「賢くん、先週言っておいた、新しい問題集は用意した？」
「はい、先生。これです」
賢が瑞恵に手渡した問題集の表紙には『難関高校入試問題精選 数学編』とあった。
「……うんうん、賢くんにはこれくらいの難易度がちょうどいいわね」
瑞恵はサインペンを片手に、問題集にチェックを入れていった。
「あたしがチェックした問題だけやってくれればいいわよ」
「わかりました」
「それじゃ、さっそく第１章から始めましょ」
「はい」
しかし十数分後、賢は鉛筆を放り出した。
「…俺、疲れましたよ。もう少し易しい問題選んでくれませんか？」
賢はどの問題も瑞恵のアシストなしでは解けなかったのだ。
「うーん、成駒高校を受験するんだったら、このくらいの問題はできないと」
「そうですね…」
「そうだ、最初に解いた問題から順に、もう一度解き直してみて。復習して、解き方を覚えちゃおうよ」
「…はい、わかりました」
自分でも気づかないうちに、椅子に座る賢は内股になっていた。
さすがに二度目だからか、賢はあっさりと自力で全部の問題を解いた。
「学習効果は出てるじゃないの。この調子で新しい問題もやりましょ」
「ところで先生、気がついたんですけど…女子校の入試問題ばかり選んでません？」
賢が不思議そうな顔で瑞恵に尋ねてきた。
「えっ？そうかしら？」
「最初のが桜葉女子高、次が聖サフラン女学院、次が大賢母学園、次が…全部女子高ですよ」
賢は各問題の文末にある「（○○高校）」の文字を指さす。
「偶然ね。あたしはただ、賢くんに克服してもらいたい分野の問題を選んだだけなんだけどな…」
瑞恵の声は驚いていたが、顔は冷静だった。
「俺の志望校は男子校なんですよ。先生、まじめに問題選んでもらえませんか？」
「あたしは至ってまじめよ。賢くん、あたしの選んだ問題が一発で解けないから、言い訳してるんじゃないの？」
「うっ……図星かもしれません…」
「数学に男子校も女子校もないわよ。女子校の問題を解いたら男子校受験に役立たない、ってことはないはずでしょ？」
「そ、そうですけど…」
「だったら気にしないで、第２章の問題解こう」
「…はい」
（これは自由女子学園…やっぱり女子校だ…）
鉛筆を握る賢の指が、どことなく丸みを帯びてきていた。
瑞恵は第２章の採点を終えた。
「うーん、１問目は単純な計算ミス、２問目は面積と体積を間違えてる、３問目はＡさんじゃなくてＢさんの所持金よね」
「あっ…、すみません」
「解き方がわかるようになったのはいいけど、ケアレスミスは困るわね。もう一度やり直して。すぐできるでしょ？」
「はい」
いつの間にやら、机に向かう賢の体はひとまわり小さくなり、顔の輪郭もふっくらと柔らかくなっていた。
やり直した第２章の採点後。
「今度はきちんとできてるわね。それじゃ、第３章にいきましょ」
「また女子高のばかりチェックしてありますね」
「やっぱり嫌かな？」
「いいえ…よくなってきましたよ」
賢のシャツの胸には、ふたつのなだらかな盛り上がりができていた。
賢が第３章の問題を解き終わる。
「先生、できました」
「あっ、早い早い。問題に慣れてきたのかな？」
「はい、そんな気がします」
「じゃあ採点しましょう……惜しい、この証明問題だけ間違えてる」
「え？この解き方じゃだめなんですか？」
「うん。そう解きたくなる気持ちはわかるけどね。三角形ＡＦＧのほうの合同条件が証明できてないでしょ」
「あっ！…でも、これ以上はちょっとわからないです」
「それじゃ、先生といっしょに解いていこうか？」
瑞恵は肩が触れ合うくらいに、自分の椅子を賢に近づけた。
賢の息のにおいが漂ってくる。心なしか、自分の息と同じような甘酸っぱさがした。
「この証明、あたしの出身校の問題なのよ。あたしも受験生時代に過去問で何度も解いたから、今でもはっきり覚えてるな」
「えっ、先生の高校って楽橋女学園だったんですか？」
「そう。だから、賢くんも楽橋に入ればうれしいんだけど…男の子じゃ無理だよね」
「ぼくが女子でも難しいですよ。女子校で一番偏差値が高いんですから」
「だけど成駒高校と同じくらいよね。賢くんがこの問題解けたら、きっと受かると思うな」
そう言いながら、瑞恵は賢の耳元に優しく息を吹きかけた。
「あんっ！」
すっかり敏感になった賢は、なだらかになった肩と背筋をビクンと震わせる。
「楽橋、受かれるようになりたいです…」
「じゃ、解いてみようよ」
しかし楽橋の問題はさすがに難しい。賢は試行錯誤の連続だった。
「先生、この補助線じゃだめですか…？」
「辺ＡＦと平行に引いたんじゃさっきと同じよ。ほかに引けるところはないか、考えて」
「んん…わかんないな…」
「ほら、もう一息！」
瑞恵は賢の膨らみかけた胸をひじでつつく。
「ああ…あんっっ！！」
これがきっかけで、賢の姿は本格的に変わり始めた。
つついた胸の膨らみが、みるみるお椀くらいまで大きくなる。同時に賢のシャツはやわらかいブラウスに変わり、下からブラジャーが透けてきた。
スポーツ刈りの髪は、耳を隠すように伸びて、清楚なショートカットに…。
「ぼ、ぼく、なんだか体が変です、先生？」
「賢くんはね、楽橋の問題を解けるようになるのよ」
瑞恵はニヤリと笑いながら返答する。
「ど、どういうこと…？あはんっ！おなかが、くすぐったい！」
ズボンが形を変えたタイトスカートの中で、賢の股間にあったものが腹に吸い込まれているのだ。やがて、その跡にはしっとりと湿った裂け目がつくられていく。
「あんん…ぼく…」
鉛筆を握ったまま、賢の意識が遠くなっていった…。
「大丈夫？」
瑞恵は、もとは賢だった女の子の肩を揺らす。
「大丈夫、菜緒子ちゃん？」
「はっ！…あたし、居眠りしてたの？先生すみません！」
意識を取り戻した森村菜緒子は、あわてて自分のノートを手にとった。
「疲れてただけよ。気にしないで」
横から瑞恵が優しく声をかけてくる。
「それより菜緒子ちゃん、問題はどう？どこに補助線引くのかわかった？」
ノートに目を通していた菜緒子は、すぐに目を輝かせた。
「あっ、わかりました。辺ＢＧと平行に引くんですね！」
「そう、正解。よくできたわね」
賢だったときにあれほど悩んでいた楽橋の問題が、菜緒子になったとたんにあっさり解けてしまった。
「やっぱり、女子になったほうが女子校の問題は解き易かったかな？」
瑞恵は菜緒子に微笑みかける。
「そう思います。あたし、この問題解けて本当にうれしいです」
「数学に自信はついた？」
「はい。志望校も楽橋に変更しますよ」
「菜緒子ちゃん、この調子ならきっと受かるわよ。あたしの後輩になれるよう、これからもいっしょに勉強がんばろうね！」
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