− ラミア(鈴奈ver.) −

作:鈴奈


 俺は、剣の腕一本だけで西に東にと渡り歩いてきた、しがない剣士。
ほんの数刻前に、依頼を受けて、街外れの山の中にある、女性しかいない屋敷の「掃除」をしてきたばかりだ。


 その切っ掛けは、ほんの些細な事だった。
偶然、女性達とお友達以上になろうとしていたどっかの男が、秘密を知ってしまい、逃げ帰ってきた事から始まった。

 その男曰く――「奴らは、人間じゃない。人に化けたラミアだ。」

 街の者は、そいつをいつもホラ吹きと見ていたらしく、その話をすぐには鵜呑みにせずに、事実かどうか調べた。
――結果、事実と分かり、腕に自信がある者が挑んで行ったが、誰一人として戻ってこなかった。

 そんな状況に手をこまねいていた街の権力者は、たまたまこの街に来た俺に依頼してきた。


 全てが終わった後の屋敷は、そこらじゅうに死体と血の後が残る凄惨なモノだった。
そんな所で一晩を明かさなければならないほど、俺は、彼女たちの最大の抵抗である魔法を受けすぎてボロボロなのだが、
一匹だけ掃除の最中に逃げだしたので、追いかけるために、そこを後にした。

 ……が……

 街と屋敷を結ぶ道は一本しかないはずなのに、どこかで道を外れたらしく、かれこれ数時間は森の中を彷徨っていた。

「参ったな。このままだと、日が暮れてしまうぞ。……ん?あれは!」
 俺がその先に見たものは、明りが付いている一軒の小屋。
「助かった。訳を話して一晩泊めてもらおう。」


 俺は、木の小屋の扉の前に立ち、ノックする。
暫しの沈黙の後、「どちらさまですか?」――若い女の声が扉の向こうから聞こえた。
「道に迷った旅の剣士です。どうか、一晩の宿を。」
「まぁ、それは難儀な事です。今開けますから。」
鍵が外れる音の後、扉が開き、「どうぞ、狭い所ですが、お入りください。」
と、背丈が剣士の肩口ほどで、すこし芯の強そうな若くて美しい女性が、剣士を中に招き入れた。

「……それは、大変でしたね。」
「ええ、夜が明けたら、追跡の続きですよ。」
 俺は、女性が出した変わった味の肉料理を食べ、しばしの会話を楽しみ、床についた。

 ただ、一つ気になることがある。
それは、床につくために鎧を脱いで、俺の体を見た彼女の一言。
「あら…いい肉付きをしてらっしゃるのね。でも、それも明日には…あ、いえ、忘れてください。」
たしかに、筋肉質な体なのは認めるが、明日、何が起きるというのだ?
そのことを考えようとしたが、強烈な睡魔に負けてしまい、そのまま寝てしまった。


《そこで気がつけば――いや――気づいても遅かったんだ。すでに、俺は、彼女の手の平の上で踊っていたのだから》


 夜が明け、窓から日が差し込み、鳥の鳴き声が聞こえた時、その異変は始まっていた。
「ん…朝か。起きるとするか。」
ベットの上で上体を起こした時、周囲の光景が全然違う事に気がついた。
「!! 何故、ここに!」
その光景は、小屋の中ではなく、辺りに血の後が残る屋敷の一室であった。

 今の状況について考えていると、部屋の出入り口から、
「お目覚めね。最低な剣士さん。」と、小屋の主であった女性の声が飛んできた。
その姿は、上半身こそ昨日、小屋であった女性と同じだが、下半身は人の足ではなく、
赤い鱗を持った蛇の胴体そのものであった。

「貴様…逃げ出したラミアだな。何故、俺は、ここにいる。答えろ!」
「簡単な事よ。あなたは、森で迷って、ここに戻ってきただけよ。」
「迷っただど、そんな事が出来るのか!」
「出来るわよ。散々、私のお友達の呪詛を受けたでしょ。その中にはね、相手を攻撃するものではなく、時間が来るとあんたの五感を惑わせるモノもあったのよ。」
「ふん!だったら、お前を始末すれば、明日にでも街に戻れる。」
「あら、それは出来ないわよ。だって、あなたも私の仲間になるんだもの。」
「どういうことだ?」
「昨日の肉料理、美味しかったでしょ。だってアレは……あなたが屠ったラミアの肉だもの。もうそろそろね、あなたが人でなくなるのは…」
 ラミアがそう言い終えたのが合図になったかのように、俺の体に変化が始まった。

 寡黙でゴツゴツした顔は、幼げが残る丸い小顔になり、常に短くしていた髪が腰の少し上辺りまで伸び、
浅黒い肌、豪腕、広い肩幅、厚い胸板という筋肉質な体は肉が削げ落ちて、
女性のようなキメの細かい白い肌、細い腕、細めの肩幅、やわらかい二つのふくらみに変わっていった。
それと、少し背が縮んだらしく、視点が起きた時よりも、下に下がっていた。

「ふふ、まだ終わったわけじゃないのよ、まだ最後の変化が残っているんだから。」

 両足がくっついて1つになり、腰から下の部分は、青い鱗に覆われながら円柱のような蛇の胴体に変化していった。
その変化は、元々の足の長さを超えて、腰から計って6mほどまで続いていた。
 もっとも、ラミアの体長を考えると、6mというのは別に気にする事はない、普通の事である。

 そして、剣士であった俺の意識は、そこで途切れた………


ガバッ、キョロキョロ
「ね、姉様!無事だったんだ。わたし、私、怖かったの。」
「もう大丈夫よ。あの剣士は、もういなくなったのよ。でも、みんなは……」
「だめだったのね……姉様。」
「ほら、そんな顔をしないの。とにかく、一度ここを出ましょう。そして…


数ヵ月後――。
 街外れの空き屋敷に、二人の女性が移り住んできた。
その屋敷が空いていたのは、以前、そこがラミアたちの砦である同時に、彼女たちの惨劇の舞台でもあったからだ。

その女性たちの顔は、どことなく以前の住人であったラミアの顔に似ていたが、街の者は、誰一人として気づいた者はいなかったという…



 2004/03/20 UP
 2004/12/31 (年賀用に)ラスト変更